DX、環境対応、新規事業構築。様々な課題を超え、船舶エンジンを世界へ提供。
株式会社マキタ
代表取締役社長 槙田 裕
1984年8月20日生まれ。香川県高松市出身。慶應義塾大学大学院 経営管理研究科を修了後、三菱商事株式会社での勤務を経て、2013年4月にマキタ入社。営業部長、常務取締役を経て、2016年6月に代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
世界トップクラスシェアの外航船向けエンジンメーカー。
マキタは、主に1~4万トンクラスの外航船向けエンジンを製造しているメーカーです。造船業界で日本を代表するメーカーである三井造船との技術提携や、世界の船舶用低速エンジンにおいて8割以上のシェアを持つドイツのMAN Energy Solutions社とライセンス契約を保有。
その高い技術力を背景に、マキタ製船舶用エンジンはシリンダ径300~460mmの小口径2ストロークエンジンの分野で世界トップのシェアを獲得しています。
造船業界全体は好況が続いています。2008年~2012年は世界的に好景気で物流も活発だったため、世界で累計積載量約1億トンの船舶が誕生しました。その後の反動やコロナショックもあっていったん落ち込んだものの、前回の好景気時に製造した船の更新期を迎えている事情もあり、また景気の波が戻ってきています。
こうした情勢を受け、当社の工場も2027年までの受注は既に決まっています。以降も、おそらく2030年前後までは埋まるでしょう。お客様からの引き合いは多いものの、十分に応えられないため、お断りするケースもあります。まずはスタッフの知恵を集め、改善活動を行ったり、経験値を上げることで、生産性を高めていかなければなりません。
経験値が厚いので、成長が早い。
当社のエンジンが多くのお客様に評価されているのは、QCD、すなわちクオリティー・コスト・デリバリー(納期)が高いレベルでバランスよく成立しているからだと思います。それは創業から100年以上という歴史に裏打ちされたノウハウと、時機を見て惜しまず設備投資してきた積み重ねによるものです。
当社の過去の経営陣は好不況の波にとらわれず、業界の行く末を見越して設備投資を行ってきました。時にその額は当時の年商に匹敵するほどの、社運を賭けた投資だったこともあります。今までの経営者や多くの技術者たちの努力が当社の強みを作ってくれている、と認識しています。
スモールベアエンジンで世界のトップシェアを持っている点も、大きな優位性になっているのは間違いありません。シェアが高いので調達コストを安く抑えられます。また、競合他社の2~3倍の量のエンジンを作るため、技術者の経験値の蓄積が厚くなり、成長スピードが早い。これはメーカーとして大きなアドバンテージといえます。
今後の重要な課題は、カーボンニュートラルに貢献し、ゼロエミッションを実現する次世代型船舶への対応です。環境負荷の大きい重油ではなく、水素やアンモニアを燃料に用いる開発実験が始まっています。私たちもこの動きに呼応していかなければなりません。
しかし、アンモニアは難燃性・毒性・腐食性という特徴を抱えているため簡単なプロジェクトではありません。また水素には燃えやすく、沸点が低く、また金属を脆化させるという性質があります。安定的に運用するには、エンジン各部の見直しや製造のための新しい工場も必要でしょう。
2030年ごろには、次世代型船舶へのニーズが高まると考えています。幸い技術者たちはこの課題に意欲を持って取り組んでいます。みんな「挑戦したい」と前向きに捉えてくれるのは、とても心強いですね。
10年で3倍以上に成長したアフターサービスが事業の柱に。
当社製のエンジンを搭載した船は世界で約1500隻に及びます。当社は、これらのエンジンをメンテナンスするためのアフターサービス体制の確立に力を入れてきました。通常、船舶は一度就航すると20年以上運用されます。その寿命を全うするまでサポートすることが、エンジンメーカーの使命と考えるからです。
メンテナンスの充実化のためアフターサービス本部を設立したのが2011年。約10年が経ち、体制はかなり整備されてきました。売上の面でも、既に30億円以上という事業の柱になっています。本部設立以前は10億円もなかったので、10年で3倍以上に拡大しました。
アフター領域がここまで発展したのは、外部から加わった中途人材の力も大きいと感じています。前職でアフターサービスやメンテナンスを経験していた社員が中途入社し、体制構築に知識を発揮してくれたことでアフターの戦略が成熟し、外部パートナーとの協力体制がスムーズに構成できるようになりました。
今後はDX推進により、効率性をさらに高めていきます。例えばITによって見積をもっと簡単に作れるようにしたり、メール問い合わせにAIが応えるようにしたりすることで、社内体制に負担をかけずサービスを充実させられるでしょう。
ビジネスを加速させる最先端のIT環境を構築。
当社はITへの投資も積極的です。社内にITに関する専門部署を設置し、どのようなシステムやアプリが必要か吟味してもらっています。「こういうシステムを入れたい」という意見に対して、私は基本的にノーとは言いません。
どんなシステムが合っているかは使ってみないとわからないし、使う前からコストを気にしても始まりません。うまくいかなければやめればいいし、他の仕組みに変えてみればいい。トライ&エラーしながらやっています。
ITがなければ、アフターサービス部門も、世界のお客様の要望にタイムリーに応えることが難しくなります。また設計業務などでも、これからはリモートワークが増えるでしょう。国内外の遠隔地にいる技術者とリアルタイムでやりとりしながら設計を進めようという時、適切なクラウドが整っていないと支障を来します。
生産設備を一台ごとに監視して作業効率の改善や検知を行う、工場のIoT化も進んでいます。また、海上の船と陸をリアルタイムで結ぶプロジェクトにも取り組んでいます。今やITが活躍しない領域はありません。世界各地に出ていって活躍する社員、現地のパートナーと協力して業務にあたる社員のため、また働き方の多様化に対応するため、IT基盤を構築していきたいと思います。
ボトムアップ型の組織に変革。
私が社長に就任したのが2016年。当時は320人くらいだった社員数が、現在では400人に拡大しました。当初は主にアフターサービス部門の拡充を目指しての採用でしたが、その後は設計や製造、管理、ITなど、全部署に新卒・中途の様々な人材が加わってくれました。多くの人を採用したおかげで、平均年齢も若くなって約35歳になり、社内もだいぶフランクな風土になったように感じます。
中途・新卒の新人を中心にランチ会を開き、「マキタの良いところ・悪いところを教えてください」というと、結構みんな的確に指摘してくれます。特に前職経験のある中途入社組は、当社とは違った会社のやり方や文化を体験しています。そういった価値観を提供してくれるので参考になります。
経営陣に加わった頃から、私はずっと「ボトムアップ型の風土にしたい」という希望を持っていました。社長になり、つい細かいところまで口を出してしまいそうになりますが、その気持ちをできるだけ抑えています。
成果は確実に出てきています。このたび2030年を見据えたマキタの長期ビジョンを作成しましたが、これを主導したのは各部門の部長です。部長が中心となるのはほぼ初めてだったので、策定にはかなり苦労したようです。
しかし、自分たちでコミットしたビジョンだからこそ価値があります。自分たちで決めたのだから、「やってやる!」という意欲が生まれる。それが一番大事だと思います。
U・Iターン志向者が働きやすい環境を。
さらなる発展のためには、新たな人材が欠かせません。ワーク・ライフ・バランスを考え、ローカルでやっていきたいとU・Iターン転職を志向する人は増えていくのではないでしょうか。そういった人々の受け皿となる会社にしていきたいですね。そのためには、働きやすさの部分も重要です。
今、力を入れているのが共働きのしやすさです。分かりやすい事例としては、フルリモートがあります。実際、試験的に四国外で暮らす人にフルリモート勤務を体験してもらっていますが、アフターサービス、ITなどの部門はリモートで十分いけますし、設計もおそらく大丈夫でしょう。副業とか、育児・介護との両立をにらんだ時、フルリモート環境があれば、選択の幅が広がると思います。
海外人材も積極的に採用していきます。今年、ベトナムから2名の新卒社員を迎えました。実は彼らは日本語がほとんど話せません。それでも構わないと思います。彼らに日本語を求めるのではなく、私たちが英語など、彼らのわかる言語に取り組めばいい。それが社員の成長にも繋がります。日本語にこだわらなければ、海外人材は採用しやすくなります。
言語の問題なら、社内のそこら中に翻訳機を置けばいい。IT部門にも「海外人材と日本の社員がスムーズにコミュニケーションできる環境づくりをしてほしい」と既に伝えています。当社で働いた海外人材が母国に帰りたいと思った時は、リモートワークで参加してもらえばいい。ある程度人数がまとまるなら海外拠点を設ける構想もあります。
新オフィスができ、フリーアドレスを取り入れるなど、働きやすい環境は整ってきました。休日なども比較的取りやすくなり、社員の満足度も上がっています。まだまだ課題はありますが、これからもボトムアップ型で進化していきたいですね。