2022.10.03
茨城出身の作家を読む ─ 古書店作家・出久根達郎
こんにちは。リージョナルキャリア茨城スタッフです。
弊社はU・Iターン転職のご支援をしています。Uターンを考えるとき、やはり誰もが「地元」のことについて想いを馳せるでしょう。
そこで今回は「地元出身の作家」を切り口とした本選びをお勧めするコラムをお届けします。取り上げるのは茨城県行方市出身の出久根達郎です。
出久根達郎について
出久根達郎(でくねたつろう 1944年~)は茨城県行方郡北浦町(現:行方市/なめがたし)生まれの小説家です。中学校を卒業した後に上京し、古書店を営むかたわらエッセイ集『古本綺譚』にて作家デビューを果たします。その後、1990年に「無明の蝶」「猫じゃ猫じゃ」「四人め」「とろろ」にて直木賞候補、1993年に小説『佃島ふたり書房』にて第108回直木賞を受賞しました。
小説やエッセイ以外に書評なども手がけているほか、読売新聞の「人生案内」コーナーでは回答者の一人として投稿されたお悩みに答えています。2016年~2020年においては日本文藝家協会理事長を務めました。
デビュー作は古本屋のエッセイ集
デビュー作となる『古本綺譚』は、1985年に出版。古書店を営む出久根が自ら解説を乗せた古書目録(商品の紹介カタログ)の巻末に、書店員の日記の形でエッセイを書いたところそれが評判となり、編集者から出版をもちかけられたといいます。古書店という商売を巡った悲喜こもごもを痛快につづったエッセイ集には、当事者だからこその視点で語られる粒ぞろいのエピソードが並び、本好きであれば前のめりで読んでしまうことでしょう。
なおその後、出久根は創作小説を書いてみないかと誘いを受けて意気揚々と執筆を開始しますが、これが大苦戦をしたようで、何度も書き直しては校正を受けて第一創作集『猫の縁談』を発表するまでに4年の歳月を費やしました。デビューにまつわる苦労話は「小説新潮」の2007年12月号の特集「作家になる道」で読むことができます。
直木賞受賞作品『佃島ふたり書房』
1993年に直木賞を受賞した『佃島ふたり書房』も、古書店ならではの視点で描かれた人情話です。佃島にある古書店「ふたり書房」を舞台の軸に、明治末期から昭和の高度成長期を移ろう古本とそれに纏わる人々を描いています。
本書は梶田という男を中心に描かれていますが、梶田の奉公先で出会う全く同じ生年月日の六司や、六司の娘で古書店を引き継ぐことになった澄子など、登場人物がどれも魅力的であり、ある種群像劇のような印象も受けました。
話の主軸には大逆事件も絡み、社会主義に関する書籍への徹底的な弾圧も描かれています。本というものが人々に与える影響、そして逆に、人々の営みや時代が本の価値を変えていく様子が鮮明に描かれ、本と人間は切り離せない存在なのだということを感じさせます。
直木賞選評の中で「過去と現在のもつれかたに、えもいえぬ詩情がたちのぼる。」と評されるように、過去と現在を頻繁に行き来してエピソードが描かれていきますが、混乱することなく点と点が徐々に結びつき、次第に過去と現在が鮮やかに重なって集約するラストには清々しさを感じられます。特に、梶田が執着することになるとある一冊の行方には、本を捜し歩いたことがある人ならば必ず、その結末に心を動かされるのではないかと思います。
また、古本を扱うことへのプライドも本書では随所に見ることができます。出久根自身、講演の中で古本屋について「世に埋もれた才能や偉才を掘り出して、人々に知らせる」商売であると言及しています。(「年俸」34号 366P 実践女子大学)
筆者が特に気に入っているシーンのひとつに、澄子が古書のセリに出向く場面があります。澄子にセリのいろはを教えるポンさんの台詞で、「本は人間なんですよ」「本の素性を知らないと、自信をもってお客に売れませんからね」というものがあります。本をただの商品として見るのではなく、そこにまつわる物語まで俯瞰して見ること、そしてその上で正しく値決めをしていくこと。そこに古書を扱うことへのプライドが見受けられ、読んでいてついにやりとしてしまいました。
ここまで、出久根達郎を紹介しました。今回紹介した本以外にも、出久根の作品には本にまつわるエピソードが多く登場し、古書への愛を深く感じられます。インターネットの普及で本はタブレットで読む、という方も増えてきているかもしれませんが、本には現物それ自体に魅力や物語があります。出久根の作品を味わった後は、きっと古書店に足を運んでみたくなることでしょう。
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