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オーナー企業からパブリック企業へ。グローバル連結経営で、さらなる成長を。

株式会社西部技研
代表取締役社長 隈 扶三郎

福岡 更新日:2024年9月18日

福岡大学法学部経営法学科卒
1987年 株式会社西部技研 入社
1990年 米国ニチメン会社にて業務研修のため出向
1993年 株式会社西部技研 営業部勤務
1994年 東京営業所勤務
1997年 専務取締役 営業本部長 就任
2002年 代表取締役 就任
2014年 春の藍綬褒章 受章
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

急拡大する市場に対応するため、積極的な投資を実行。

-2018年5月の前回インタビュー(※ページ下部『関連インタビュー』参照)から6年が経ちます。この6年で市場環境の急速な変化を感じますが、まずはその点から伺えますでしょうか。

2018年当時はちょうどSIC(西部技研イノベーションセンター)を開設した時で、足元ではグローバルで特に中国関係の需要が大きく伸びていました。当時、EV化によるリチウムイオン電池の量産が始まった時期で中国はそこでかなり先行して積極的な投資を行ってきました。

この6年はバッテリー関係の需要が顕著に伸びたと言えます。それに伴ってバッテリーメーカーが求める除湿空間を作りだせる当社のデシカント除湿機およびドライルームの引き合いが大きく伸びてきました。

そしてもう一つはVOC濃縮装置です。これは半導体や液晶、そして自動車の塗装やグラビア印刷などの工場から出る排ガスを濃縮・燃焼するための装置ですが、各国での排ガス規制の厳格化に伴ってヨーロッパから始まり、アメリカ、日本、台湾、韓国といった国々で需要が顕著に伸びていました。そしてこちらも6年前ぐらいから中国の需要が伸びて、当社のキャパシティを超えるような状況になりました。

もともと我々の製品は非常にニッチな市場で、競合が少ないところで事業を展開していましたが、市場の急速な拡大によってお客様が望むリードタイムにお答えすることが難しくなっていました。市場が拡大すれば競争相手も増えるので、それらの企業が本格参入するタイミングより早く生産拡大してお客様の期待に応える必要があります。

そこで、2021年に宗像工場を竣工させました。これによりVOCは大きく伸びてきた需要に対応できるようになりました。

EV市場の成長はこれから。

-確かに2020年以降、生産拡大のために工場の新設や拡張に積極投資しており、それ以前とは明らかにフェーズが変わった印象です。

今のポイントはリチウムイオン電池が量産される車載向けの需要です。リチウムイオン電池向けの需要は10数年前からモバイル機器を中心にありましたが、これは少しずつ堅調に伸びている状況でした。

ところが、6~7年前から車載用で急激な伸びを見せ、当社も海外のアッセンブリ工場を増設して、今では中国で4工場が稼働しています。それに加えてアメリカでも2024年2月に新工場を竣工させ、ポーランドの工場も拡張しました。

そして一番重要な心臓部であるハニカムローターの増産。これが大きなテーマです。ハニカムローターは日本でしか作っていません。まさにこの本社工場でも作っていますが、新しい設備を導入したり、工夫を凝らしたりしながらなんとか増産体制をとってきました。

しかし、それでも今後の伸びに対していずれキャッチアップできなくなるだろうと考え、宗像工場の隣接地を取得して宗像第二工場を立てる計画を進めています。心臓部であるハニカムローターの製造キャパシティを上げることによって、益々伸びるリチウムイオン電池の需要に対応したいと考えています。

足元で中国は調整局面ではありますが、それでもEV市場そのものは伸びていきますし、日本やアメリカはこれからです。そこで我々がデシカント除湿機をタイムリーに供給できる体制を構築し、品質はもちろん生産キャパシティそのものを上げることで優位性を高めていきます。

オーナー企業からの脱却。上場を決断。

-2023年10月には東証スタンダード市場に上場もされました。

このように成長・拡大にアクセルを踏み込んだのは、これもちょうど6年ほど前ですが、上場しようと決めたことが大きいですし、実際に上場してオーナー企業からパブリックカンパニーになり、資金調達をしたことが大きいですね。

調達した資金を工場の投資に充て、さらなる成長を実現する。これは上場企業として、投資家の付託に応えるということもありますし、上場した限りはやはり確実に成長できるようなストーリーを描き、それを社内だけではなく社外に説明する必要があります。

より強く、成長が求められるようになったということだと思いますし、上場企業としていかに成長していくか、これがテーマになったと感じています。

よく「なぜ上場したのか?」と聞かれますが、大きな理由のひとつがまさに今述べた資金調達をして工場へ投資するということですね。市場の拡大に伴い、我々がパイオニアとしてまだまだ成長できる余地があるだろうと。

成長するにあたってはやはりメーカーなのでモノをフィジカルに作らないといけません。それも日本だけではなく世界各国で。また、株式市場から資金を調達することによって会社の信用度を上げ、これまで以上に大型の仕事を獲得する必要があります。

今は本当に6年前では考えられない、一つの物件が数十億円の仕事を手がけるようになりました。これは技術力はもちろんですが信用力も大きいと思います。

グループ連携によるシナジーでさらなる成長を。

-信用力や知名度が上がることで採用面にも良い影響が出そうですね。

おっしゃるとおりで、調達した資金を工場に投資しても、製品を開発して工場で製造しお客様に納品するのはすべて人です。やはり人材なんですよ。それから、これまで以上に海外のグループ会社との連携を強めてシナジーを発揮するために、しっかりと連結経営を行っていかないといけません。

海外にグループ会社が7社ありますが、これまでは「それぞれ責任者がなるべく独自に頑張ってください」というスタンスでした。誤解を恐れずに言えば、お客様から仕事を受注し、心臓部であるハニカムローターを少しでも多く買ってもらえれば良かったという面もありました。

しかし、繰り返しになりますが、パイオニアとして我々がさらに成長していくためにはグループの連携によるシナジーの発揮は非常に重要なテーマです。グループでどう伸ばしていくのかとなると、当然のことながらそういったことを考え、支える人材が必要となります。その他にも、得意な技術をより伸ばすとか、新たなビジネスモデルを考えるとか、クリエイティブな人材も必要となります。

当社は福岡の会社ですので福岡ではそこそこ名も知られ、地元の人を中心に採用もできるようになってきましたが、全国的に言えばそうではありません。さらに言えば、日本国内だけでなく海外の人材を引き付けるのにパブリックカンパニーであるということがひとつのステータスになると思います。

グローバル連携経営の中核を担える人材の育成と採用を強化。

-組織や人材の面での課題はどのようにお考えですか?

やはりマネジメントのやり方とマインドセットを変えていかないといけません。我々は創業が1965年で58年目に上場したので、仕事のやり方やマネジメントも独自のやり方が染みついています。

そこを3年ぐらいで上場基準に合わせてやってきましたが、身についているかと言われればまだまだそうではありません。本当にすみずみまで上場会社のやり方が浸透して、しっかりと回るようになるのにもう少し時間が必要だと感じています。

やはり、その点でキャリア採用は非常に重要だと考えています。様々な環境で経験を積んだ方を迎え入れて積極的に変えていってもらいたいと考えています。よくある話ですが、そうすると文化的な衝突が起こることもあるでしょうが、そこは仕方がないと思っています。

今いる社員の皆さんにもマインドセットを変えてもらわないといけません。事業においても、どうしても「日本の事業をどうするのか」という発想が優先されて“共創”というマインドや感覚が少し弱いように思います。

逆にスウェーデンやポーランド、アメリカの会社の人たちはその感覚が非常に強い。この点も考え方を変えていく必要があると思っており、2023年10月からグローバルマネジメントコミュニティを立ち上げて、各事業会社のトップを集めミーティングを定期開催しています。これが少しずつ機能しつつあると感じています。

今後、当社グループのグローバル連結経営の中核を担う人材は日本人か、スウェーデン人なのかアメリカ人なのか中国人なのか、国籍も性別も問わず活躍できる人が必要です。

本社においてはまだまだその層が薄いとも感じているので、海外のグループ会社にいる経営ボードに近いレベルの人を育てたり採用していかないといけませんし、若い人たちも積極的に抜擢していきたいと考えています。

編集後記

チーフコンサルタント
瀬川 泰明

6年ぶりに隈社長にインタビューをさせていただきました。前回のインタビューでは、部品メーカーから完成品メーカーにビジネスモデルを転換させたことによって会社が大きく成長しているというお話を伺いました。

あれから6年。当時の西部技研の売上高は約100億円でしたが、直近の実績では287億円と、さらに大きく成長しています。その大きな要因は国内外において工場・設備への大型投資を行ってきたことです。

業界のパイオニアとして成長する電池市場を支え、その先にある人々の暮らしをより良くしていきたいという隈社長の強い覚悟が感じられるインタビューとなりました。

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