「自立と変革」へ挑むキューデン・インターナショナルの現在地。
株式会社キューデン・インターナショナル
代表取締役社長 満吉 隆志
鹿児島出身。1988年九州電力入社。以来、国際事業本部国際事業戦略グループ長、同本部副部長、企画・需給本部 エネルギー取引部長、執行役員兼企画・需給本部副本部長を歴任。2024年6月より同社執行役員、当社代表取締役社長を兼務。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
真の意味での“自立”を目指すプロセス。
現在、九州電力は純粋持ち株会社制への移行に向けた準備を進めています。発電・小売りや送配電、再生可能エネルギー、ICT、そして海外事業を担う当社など、主要な事業会社は新設される持ち株会社の傘下に入る予定です。
同時に2035年に向けたグループ経営ビジョンの策定作業も進んでおり、他の主要事業会社と同様にキューデン・インターナショナルはグループの基幹会社の一つとして、真の意味での“自立”を目指すプロセスに入っています。
それぞれの道筋はおおよそ見えつつありますが、これを具体的に実行するプロセスは容易ではありません。誤解を恐れずに言えば、戦略を立てること自体はそれほど難しくありません。難しいのはその実行であり、特に最も難しいのは組織改革と人材改革です。
組織改革・人材改革においてまず重要なのは、全体に占めるキャリア採用の割合です。現在は全体の約2割程度ですが、九州電力からの出向者と中途入社者の割合を同程度にしていきたいと考えています。
外部から入ってきた方々がより活躍できる環境、企業文化、行動規範、そして処遇を整え、一つの価値観を共有し、さまざまな人々が同じ方向に向かって働ける会社にしていきたいと思っています。ここが実現できなければ、戦略は達成できません。
今は大変な時期かもしれませんが、逆に言えばこれは変革のチャンスであり、2035年に向けて非常に重要な時期を迎えているといえるでしょう。
独自の価値観や理念が必要。
九州電力は九州に根ざした会社であり、安定した質の高い電気を九州のお客さまにお届けすることを使命としています。これは今後も変わらない、非常に大事なマインドです。しかし、我々キューデン・インターナショナルのフィールドは世界です。九州電力の価値観や考え方をそのまま海外に広げていくのは、ミスマッチが生じる部分もあります。
わかりやすい例をあげると、九電グループではカーボンニュートラルの実現に向けたアクションプランを策定し、その実現に向けた取り組みを進めています。しかし、我々のフィールドの一つである新興国で明日の食事に困っている人たちに対して「クリーンな電気なので、食事よりも10倍高いけど買ってください」とは言えないわけです。
もちろん、時間軸はかなり長くなるかもしれませんが、カーボンニュートラルに向けて取り組んでいくことに異論はまったくありません。ただ、世界を見渡せば地域によって状況は大きく異なります。地域の実情に合った、そしてお客さまの期待に応える最適なソリューションを提供していくことが重要です。
そのため、我々は九電グループでありながらも、九州電力のものとまったく同じ価値観で進めていくのは難しいといえます。キューデン・インターナショナルとしての価値観や理念を明確にすることが、本当の自立への第一歩です。ここが曖昧であれば、外部から入ってきた方々も活躍しにくくなりますし、力を存分に発揮してもらうためにも、この点が非常に重要だと考えています。
2035年に向けて注力する4領域。
事業の面においては、2035年に向けて大きく4領域を見ています。ひとつは送配電事業です。例えば、海外での洋上風力向けの直流送電線や異なる国の送電網を接続して電気を融通する国際連系線です。特にEUでは、サプライチェーンにおける特定国への過度な依存を是正する動きが強まっており、北アフリカや中東から送電線を使って電気をヨーロッパへ供給する動きが出てくるでしょう。
次にガス火力です。化石燃料であるため、カーボンニュートラルの文脈で懸念の声があることは事実ですが、エネルギートランジションの期間は相当に長いと思います。実際、アメリカでは現状、電源構成の約4割をガス火力が占めています。
また、先ほどの話に戻りますが、新興国においては、これまでの石炭火力からガス火力に転換することで、温室効果ガスを大幅に削減できます。これはカーボンニュートラルに向けた道程の一部です。実情に即したソリューションを提供するという意味では、ガス火力には今後も注力していきます。
そして再エネです。再エネの位置づけは国によって異なりますが、特にアジアでは、再エネが主体電源となるよう引き上げていかなければなりません。ここでは、PPA(発電事業者と需要家との間で結ばれる電力購入契約)で長期契約を結び、アセットを長期にわたって保有し続けることになるでしょう。一方、アメリカでは、一般の投資家から資金を調達し、その資金を再投資に回す、いわゆるリート・ファンド方式で循環型ビジネスを実現できる可能性が高いと考えています。
最後に、再エネの延長線上に位置するCCS(二酸化炭素の回収・貯蔵技術)や水素、アンモニアを使った発電です。CCSについては、どうしても化石燃料を使用しなければならない業種が存在するため、しっかりと押さえておく必要があります。
また、水素やアンモニア、合成メタンなど、カーボンニュートラルに寄与する燃料はさまざまありますが、実際にはどれが次の主流になるかはまだ明確ではありません。とはいえ、これらが10年先の収益の柱になる可能性があるため、将来を見据えて動き始めることが重要です。
高い信用力をテコにチャレンジャーの戦いをする。
キーワードとなるのは「選択と集中」と「ポジショニング」だと考えています。選択と集中は、決して株式投資のような分散投資ではなく、集中投資を行うことです。それによって、主体的な事業者となり、事業をコントロールできるようにしていかなければなりません。
ポジショニングについては、当社の規模感から言うと業界のリーダーやフォロワーの戦略は取れません。我々は第三軸、つまりチャレンジャーの立場です。各業界には第三軸と言えるプレイヤーがいますが、それらはアイディアやアグレッシブさで、リーダーやフォロワーとは異なる差別化戦略をとっており、その点が非常に面白いと感じます。つまり、いろいろなことに挑戦できる環境が整っているということです。
それでありつつ、いわゆる新興企業とは異なり、当社は九州電力という強力な信用力やノウハウをベースにしています。この点は本当に大きな強みです。例えば、世界的な特許や技術を持っているわけではありませんが、日本、特に九州において電気の安定供給を担い続けてきたという事実があり、この信用力は海外で話をしていても非常に大きな力を発揮します。
他社とのアライアンスにおいても、「キューデンなら一緒にやってみよう」という話につながりやすいのです。この強力な信用力をレバレッジにして、他社とは異なる少しアグレッシブで変わった戦略をとっていけるのは、本当に面白いと思います。
専門性×改革マインド。
キャリア採用においては、これまではファイナンスができる事務系の人材を中心に採用してきました。引き続き事務系の採用は行っていきますが、今後はコアとなる技術系人材、特に発電に限らず、プラントエンジニアリング会社での経験をお持ちの方の採用を強化していく考えです。
その他には、電力のトレーディングができる方や、コーポレートPPAに関してホールセールのような形で、例えばデータセンターを運営するお客さまとの契約を結ぶような業務に携わった経験がある方、またはそのようなコネクションをお持ちの方にも興味があります。
それら専門性ももちろん重要ですが、改革マインドやチャレンジ精神の有無はキャリア採用で特に重視したいと考えています。大きな船で波を感じずに進んでいきたい方ではなく、小回りのきく船に乗って波の大きさを感じ、浮き沈みがあっても荒波を越え、事業や会社、そして自分自身を大きく成長させていきたい方を求めています。
今は変革期であり、創成期とも言えるフェーズです。このようなフェーズにある企業は、そう多くはないでしょう。そのようなフェーズにジョインして一緒に進んでいってくれる方と一緒にフィールドを駆け巡り、夢を追いかけていきたいです。