企業TOPインタビュー

国内最大級の紙生産能力を基盤に新素材を開発し、年商1兆2,000億円を目指す。

大王製紙株式会社
常務執行役員・新素材事業推進室 溝渕 博士

愛媛 更新日:2025年5月28日

1964年生まれ。香川県出身。大学で化学を専攻し、卒業後は大王製紙株式会社に入社。工場部門にて原料パルプやコピー用紙、印刷用紙などの新商品開発を担当する。入社から10年後、生産子会社へ出向し、生産部門に従事。その後は本社の技術開発部に戻り、紙・板紙の技術開発を経て、ティシューペーパーや紙おむつといったホーム&パーソナルケア部門の商品開発を担当する。2024年10月より新素材事業推進室の責任者に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

「エリエール」の知名度と、コスト競争力の高さ。

大王製紙の設立は1943年。新聞用紙および段ボール原紙の生産を祖業とする洋紙メーカーとして歩みを始めました。1979年に「エリエール」ブランドを立ち上げ、ティシューやトイレットペーパーといった衛生用紙市場に参入。2000年代に入ると、吸収体を活用した紙おむつ製品も開発して一般消費者に届けるなど、BtoCの領域でも着実に実績を積み重ねてきました。

2010年以降は海外展開を加速させてタイ・中国・インドネシアに生産および販売拠点を開設し、海外の自社工場でベビー用紙おむつの生産を始めました。現在では、アジア・南米を中心に海外拠点は10カ所にまで拡大しています。

愛媛県四国中央市にある四国本社の三島工場が持つ紙製品の生産能力は、年間約210万トン。臨海型製紙工場として世界屈指の規模です。この生産能力に裏打ちされたコスト競争力と、知名度の高い「エリエール」ブランドが大王製紙の推進力となっています。

年商は現在、国内外で約6,700億円。約3,500億円が「紙・板紙」事業の売上で、約3,000億円がティシュー・トイレットペーパー・紙おむつなどの「H&PC(ホーム&パーソナルケア)」事業、残りの約200億円がその他の売上です。

紙・板紙の需要は依然として堅調で、製紙会社としてしっかり支えていきたいと考えています。H&PCについては、国内需要に加えて海外市場でのさらなる拡大が期待されています。この分野では衛生用品、日用品、化学品といった大手企業との競争が激しくなりますが、大王製紙ならではの特色を活かし、独自の価値を発揮していきます。

脱炭素時代に不可欠のセルロースナノファイバー。

当社は長期ビジョン「Transformation 2035」を策定し、2035年のグループ売上高1兆2,000億円の達成に向けて動き出しているところです。中でも「新素材事業」は戦略の柱の一つで、2035年に1,000億円のビジネスに育てていくことを目標としています。

そのため、研究開発費の拡充にも注力しています。現在の研究開発費は50億円で、売上高に対する比率は0.7%ですが、2035年には240億円、2.0%への引き上げを予定しています。

新素材事業の中核となるのが、CNF(セルロースナノファイバー)とBR(バイオリファイナリー)の二つです。これらの研究は2011年ごろに始まりました。CNFとは、木材繊維をナノレベルにまで微細化したもので、鋼鉄の5分の1程度の軽さながら5倍の強度を誇ります。

高粘度・高強度の特性を有することから、化粧品や塗料の配合素材として使用されており、私たちも自社トイレクリーナーへの実装をはじめとした用途展開を進めてきました。さらに今後は、強度や軽さといった特徴を発揮できる分野への応用を考えています。

具体的には、プラスチックにCNFを混合した複合樹脂「ELLEX-R67」を開発し、自動車部品や流通業界で使用されるパレット、家電用の部材として供給します。2025年7月には国内で初となる、年産2,000トン規模のCNF複合樹脂量産プラントも稼働予定です。

自動車や家電、流通の業界ではポリプロプレンを中心とするプラスチックが多く使用されています。これらをCNF複合樹脂に置き換えると、強度を保ったまま軽量化が図れます。自動車であれば軽量化するほど燃費が向上しますし、物流業界でも効率的に物が運べます。いずれもエネルギーの浪費を抑えてくれるわけです。

またCNFは木質由来なので、木が育つ中で二酸化炭素を吸収してくれる効果も期待できます。カーボンニュートラルが求められる時代にCNF複合樹脂は欠かせない素材なのです。

当社は6種類のCNFを保有しており、多様な産業への展開が可能です。2030年には市場規模が2兆円に達すると見込まれるCNF分野において、確かな地歩を固めていきたいと考えています。

製紙で培ったインフラをバイオリファイナリーに活かす。

新素材事業のもう一つのコアが、BR(バイオリファイナリー)です。これは木の端材や廃材、あるいは古紙などを原料にバイオ燃料やバイオ化学品を生産するというものです。

カーボンニュートラルは世界にとって喫緊の課題ですし、資源小国の日本は世界情勢の不安定化でエネルギー確保が困難になる事態も想定しなければなりません。そんな中、BRに脚光が当たり始めたのです。

BRにとって有望な市場の一つがSAF(サフ=Sustainable Aviation Fuel「持続可能な航空燃料」)です。日本政府は2030年までに、国内航空機用ジェット燃料の10%をSAFに置きかえる、という目標を定めています。国内の航空機会社は対応を始めていますが、日本ではSAFを製造できる会社が少なく、輸入に頼っている状況です。

しかしコストを考えれば、いずれ国内に切り替えたいと思うでしょう。また乗用車でも、バイオエタノール混合燃料の使用が決まりつつあります。それらのニーズに応えるため、実用化を急がなければなりません。

製紙業界では以前から使い道のない廃材や木の切れ端を原料として活用したり、古紙を集めたリサイクルなどの取り組みを行ってきました。針葉樹は国内に豊富にあるので、製材所で出た端材や廃材を集めて原材料にしています。広葉樹については、大王製紙は南米のチリに東京都と同じくらいの面積の植林地を持っており、そこで育った木を船で運び入れています。

三島工場は臨海工場なので、木材を港からそのまま工場へ搬入することが可能です。何より三島工場は国内最大級の生産能力を誇ります。バイオ燃料は量を作らないとビジネスになりにくいのですが、それを実現できるだけの基盤は整っているわけです。

BRのビジネス化には、飛行機メーカーや燃料会社などとの協業も必要になるでしょう。信頼のおけるパートナーと手を組み、事業を前に進めていきたいと考えています。

知識は問わない。チャレンジする姿勢を重視。

新素材事業推進室のメンバーは現在約50名。セルロースナノファイバー領域で40名弱、残りがバイオリファイナリー領域といった構成です。今後の発展に合わせ、メンバーも増えていくでしょう。

そのため、キャリア人材も積極的に採用していきます。新素材事業推進室には中途入社の社員も多く在籍しているので、新しく加わる方もこれまでの経験やスキルを存分に発揮できるでしょう。

CNFの知識はあった方がいいですが、必須条件にはしません。当社では、以前とまったく異なる部署に配置され、新たなチャレンジを繰り返すのが一般的です。新しい分野でも、チャレンジする姿勢を持っていればまったく問題ありません。

CNFはいろんな分野に展開していきたいと考えていますので、さまざまなバックボーンを持った方を歓迎しています。もちろんCNFの知見をお持ちの人は、即戦力として最大限に経験・知識を活かしてほしいと思います。

また、これまでプラスチックを取り扱ってこられた方々のご経験は、当社においても十分に活かせます。例えば、家電品に樹脂を使う場合はCNFの有無に関わらず、求められる強度は同じはずです。

そうした知見があれば、素材がCNF複合樹脂に変わっても、スムーズに対応できるでしょう。逆に既存のメンバーにプラスチックについて教えていただきたい、とも期待しています。

BRについては、バイオ化学や発酵工学、遺伝子工学などのご経験をお持ちの方であれば、比較的スムーズに業務へ参画いただけると考えています。ですが、CNFと同様に必須条件ではありません。

BRはまだ研究段階にあり、フェーズが進むにつれてお任せする業務も変わっていくことが想定されます。研究段階をお任せするかもしれないですし、量産前の段階や、最終製品を担っていただくことになるかもしれません。担当領域は多岐にわたるため、さまざまな経験を活かせるフィールドがあると考えています。

新たな課題に取り組む意欲を持っている方、自分の知識を広めることで開発業務のレベルアップに貢献したいと考える方、そして、新たな技術で社会課題の解決に寄与したい方を広く歓迎しています。

コミュニケーション重視の風土で、やりがいあるものづくりを。

大王製紙は2016年、「世界中の人々へ やさしい未来をつむぐ」という新たな経営理念を制定しました。そして「やさしい未来」を実現するために提示した価値観が、「3つの生きる」です。

一つ目は「衛生」で、「人々の健康を守り、共生社会を実現すること」。二つ目は「人生」で、「人生の質を向上させ、心豊かで幸福を感じられること」。三つ目は「再生」で、「自然豊かな地球に再生し、多様な生物が繁栄できること」。これらを明確化することにより、多様性を尊重して全ての社員がやりがいを持って活躍できる会社にしよう、と決意したのです。

社員の意識も変わってきました。一言で表現すると、コミュニケーションの質が上がったのです。大王製紙は業界的には比較的若い会社で、「老舗ではないのだから、いろいろチャレンジしていこう」という風土を以前から持っていましたし、「意見が言いにくい」ということもありませんでした。それをもっと深めようという気運が生まれたのです。一例ですが、上司を役職名で呼ぶのをやめ、「〇〇さん」と個人の名字で呼ぶようになったのも、現在の社長が就任してからです。

開発の仕事は、コミュニケーションがとても重要です。研究室にこもって一人でやる仕事ではなく、営業、マーケ、製造など多彩な部署と調整しないと最終製品になりません。コミュニケーションが活発に行われる風土なので、「いろんな方と力を合わせてものづくりしている」という手応えが味わえると思います。

大王製紙の入社動機で一番多いのが「エリエールを作っている会社だから」「使ってみてエリエールはいいなと思ったから」、というものです。自分たちの作ったものが生活の中にあり、使ってみて良かったと言われるのは、嬉しいものです。そんな想いに共感できる方は、やりがいを持って活躍していただけるのではないでしょうか。

編集後記

コンサルタント
川田 基弘

今回のインタビューでは、私たちの日常生活に深く根づいている「エリエール」ブランドをはじめ、身近な製品を数多く手がける大王製紙が挑む、未来を見据えた新素材開発についてお伺いしました。

これまで製造コストの壁から実用化が難しいとされてきたCNF(セルロースナノファイバー)でしたが、年産2,000トン規模の量産プラントが稼働を迎えるタイミングにあり、この新たな一歩によって、これまでにない強度や軽量性を持つ素材が、さまざまな分野に広がっていく可能性に大きな期待感を覚えました。

長年にわたり培ってきた製紙技術と生産インフラを活かし、脱炭素社会への貢献も視野に入れた新たな挑戦は、まさに大王製紙だからこそ実現できるものだと感じます。これからの事業展開に、ますます期待が高まります。

関連情報

大王製紙株式会社 求人情報

企業TOPインタビュー一覧

ページトップへ戻る