四国の発展なくしてJR四国の発展なし。運命共同体である四国の未来をつくる。
四国旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 四之宮 和幸
1989年、京都大学大学院(交通土木工学専攻)修了。同年4月より四国旅客鉄道株式会社に入社。高架工事、橋梁・トンネル検査といった土木部門を担当する。2001年には関連企業の徳島ターミナルビル株式会社に出向し、ホテル・駅ビル運営などを経験。2004年に復帰後は管理職として様々な部門を歴任。2017年に取締役、2020年に常務取締役総合企画本部長、2022年に代表取締役専務総合企画本部長を歴任。2024年に代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
公共交通の充実がインバウンドを呼び込む。
JR四国は2021年度を始期とする長期経営ビジョンを策定し、2031年度の経営自立を目指して走り始めました。その直後にコロナ禍の影響を大きく受けましたが、その中でも新たなチャレンジを続け、2024年6月、私が社長のバトンを受け取りました。この間、人々の価値観も大きく変化し、我々も「変わらなければいけない」という思いを一層強くしています。
コロナ禍で激減していたインバウンドが戻り、多くの観光客が再び四国を訪れています。昨今の観光客は非常にアクティブで、これまでは四国で観光といえば、愛媛の道後温泉や香川の栗林公園、金毘羅さんなどが定番でしたが、近年は私たちですらあまり詳しくない場所でも、観光客が探し出し、足を運んでいます。
「日本のウユニ塩湖」としてブレイクした父母ヶ浜やJR下灘駅にスポットライトが当たったのは記憶に新しいところで、今後も思わぬ場所が注目を集めるかもしれません。
そうなると重要になるのが、公共交通の充実です。公共交通を使って四国の隅々までアクセスできるようになれば、道に不慣れな観光客はとても便利になるでしょう。実際、四国の鉄道やバスが乗り放題になる訪日外国人向け「ALL SHIKOKU Rail Pass」の発売枚数は、コロナ禍前の9割にまで回復しました。また、国内観光客向けの地域限定の散策パスは、海外からの観光客にも好評となっています。
垣根を超えたモーダルミックスで利便性を向上。
しかし、単一の交通で四国を網羅するのは採算性や人手不足などの問題もあり、現実的ではありません。そこで当社は、公共交通ネットワークの四国モデル構築に力を入れています。すなわち、鉄道、バス、タクシー、海運といった交通機関が連携するモーダルミックスの取り組みです。
私たちは以前から、誰が四国に訪れても不便を感じることのないよう、Googleマップへの公共交通データ掲載を働きかけていました。おかげで鉄道のみならず、路線バスやコミュニティーバス、海路に至るまでのデータが掲載され、その充実ぶりは四国が他地域に先んじるほどです。
モーダルミックスを実現するには、公共交通同士の接続が重要になります。最近では徳島バス社と連携し、JRの切符があれば徳島バスにも乗れるようにしました。
実はこの仕組み、かつては独占禁止法に抵触するとされていました。しかし、少子化・人口減の時代を迎え、地域の交通の足を守るため「国土交通大臣の認可を取得した場合は可」と制度が緩和されたのです。その制度における鉄道とバスの共同経営第一号となったのが、JR四国と徳島バスの連携でした。地方公共交通のあり方を考える私たちの想いが、国を動かした例といえるかもしれません。
さらに、東かがわ市を走る大川バス社と手を組み、JR通学定期を持っていれば大川バスの一部区間にも乗車できるサービスも生まれました。「朝はJRで間に合うけど、帰りに適当な便がない」という学生の声に応えたものです。
地域交通のDXを推進する電脳交通社と協力し、鉄道とタクシーの連携も模索しています。特急列車の車内に貼られたQRコードを読み込み、乗車中に手配を済ませておけば、駅に着いてすぐタクシーに乗れるという仕組みです。
首都圏ではアプリでタクシーを呼ぶことは当たり前かもしれません。しかし、地方ではタクシーの台数そのものが減っており、アプリに対応できるタクシー事業者も多くありません。現在はまだ実証実験ですが、早い段階で四国の主要駅を網羅していきたいです。ここにライドシェアを採り入れると、さらに効率的な交通網になると考えています。
「非鉄道」部門でもグッドチャレンジを。
当社は2021年3月策定の「長期経営ビジョン2030/Good Challenge」で、3つのミッションを掲げました。
1.地域とともに、「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求する
2.訪れたい・暮らしたいと感じる、にぎわいとおもてなしにあふれる四国をつくる
3.新しい価値・サービスの創造にチャレンジする
地域の鉄道を確固として支えることは大前提として、鉄道以外の分野でもグッドチャレンジを展開していかなければなりません。
2024年3月にオープンした新JR高松駅ビル「TAKAMATSU ORNE(高松オルネ)」は、その象徴的事例といえるでしょう。県都高松の玄関口にふさわしい「時間」と「こと」を楽しめるオルネには多くの人が集まっており、年間700万人の来場を見込んでいます。その賑わいが影響してJR高松駅の乗降客数も伸びるという、鉄道と非鉄道の相乗効果も生まれています。
非鉄道部門は「ホテル」「駅ビル・不動産」「飲食・物販」「ビジネスサービス」と4つのセグメントに分かれています。ホテル部門はすでに80億円弱を売り上げるまでに成長していますし、駅ビル・不動産部門では、高松オルネのようなさまざまな案件が進行しています。
2023年には四国・リレーションシップファンドを立ち上げました。このファンドは、四国を元気にしたい、四国の発展に貢献したいという中小企業・スタートアップの継続的支援を意図したものです。JR四国が唯一の出資者のため、利害関係者が少なく、自由度が高いことが大きな特徴といえます。
JR四国が出資をしても、経営はそれぞれの会社に任せる、というのが基本スタンスです。ただし、将来的には「JR四国から経営改善のための人を送り込んでほしい」というニーズが高まることもあり得るので、そのための人材の確保・育成も念頭に置いています。
地方では事業承継問題が増加しています。「現地事情に明るくない他地域の会社に吸収されるよりも、JR四国に保有してもらって地域活性に役立ててほしい」そんな声に応える仕組みにもなり得るでしょう。
新規事業プロジェクトでもユニークな案が挙がってきています。2024年8月からは、熊本県の有限会社ひらやまとの協業で、サーモンの陸上養殖にトライしています。JR四国にとっては初の一次産業です。また、地域の空き家・古民家再生の試みとして「4S STAY」という簡易宿所を、徳島県の山間・阿波池田駅周辺に3ヶ所開業しました。2024年11月には、新たに香川県高松市にもオープン予定です。
これらはいずれも社員の熱意が出発点となったプロジェクト。石橋を叩いて渡るような固い制度設計はしておらず、「まず一歩踏み出してみよう」という考えによるものです。
それでも社員たちは優秀で、課題に対して想像以上のアウトプットをしてくれていると感じます。やはり新規事業はボトムアップでやる方がいいですね。社員たちが経営のプロ人材として育っていけば、非鉄道部門はさらに活性化するでしょう。
ボトムアップ型に風土が変わってきた。
コロナ禍を経て社会が大きく変わり、事業を進める上で新たな発想が必要になっています。そのためには、JR四国の風土も変えていかなければなりません。上意下達式ではなく、下から上に、あるいは領域を飛び越えて横から横に、自由に意見が飛び交うような組織にならなければと痛感しています。
少しずつですが、変化は起こっているようです。サーモンの陸上養殖も、古民家を簡易宿所として再生するプロジェクトも、従来であれば恐らく誕生していなかったでしょう。「こんな社会課題がある、だから解決したい」と熱意を持って語る社員が増えてきていることは大変心強いです。
中途・新卒を含めて若い社員が増えてきたのも、変化のスピードが上がった要因の一つだと思います。現在、JR四国の平均年齢は約34歳。他の交通系・インフラ系の会社と比較しても、だいぶ若い方ではないでしょうか。
これまでは、根回ししたり方針の浸透に時間がかかったり・・・といったことが往々にしてありました。しかし、ICTのグループウェアを導入したことで効率化が進みました。チャット機能を使えば、組織全体に同時にテーマを公開して議論を始められますし、現場の管理職への連絡や経営陣の意向の伝達も、格段に早くなりました。ですから、社員たちがすぐ行動を起こせるのです。
今後もさまざまな機会を使ってタイムリーに情報や方針を発信し、JR四国の変化を加速させていきます。
四国の社会課題解決に力を尽くしてほしい。
JR四国の土台である鉄道運営においては、安定性・信頼性を損なわないよう、徹底的にリスクを低減しなければならないのは言うまでもありません。一方、「非鉄道」部門においては、ある程度リスクをテイクする必要があります。失敗を恐れていては、変革は起こせません。
一見、相矛盾する両者ですが、「安全第一を基本とするJR四国が、新たなプロジェクトに挑戦する」という点に価値がある、とも感じます。新しい事業に投資するとしても、JR四国が進める以上、やみくもにというわけにはいきません。リスクはテイクしつつ、一つひとつの案件をしっかり吟味します。
投資を受ける側に言わせると、「そういった慎重なJR四国だから、安心して協業しようと思える」そうです。自分たちの利益だけ確保できればよいという考えではなく、「事業の先にある価値まで考えた上での投資観点を持ったJR四国だから任せたい」と。この点は、とても大事です。
高松オルネの開業で、高松駅の乗降客数が目に見えて増加しました。このように、まちづくりにつながる事業を行うと鉄道にもプラスになります。四国の他の主要駅も、うまく活性化できれば地域が賑わい、四国の抱える社会課題を解決する策となる。引いては私たち自身にもプラスの効果が期待できます。
JR四国がまちづくりに貢献することは、採用にも好影響をもたらす、ともにらんでいます。「四国に移住したいので、四国で転職先を見つける」というように、住みたい地域を第一に就転職先を選ぶ人は珍しくありません。であれば、四国に来たくなるような四国自体のブランド力を高めればいい。四国の魅力向上はU・Iターン者の増加にもつながるはずです。
JR四国の持つリソースを使って、四国の社会課題を解決する。そこに意義を見出だせる方なら、やりがいを持って活躍してもらえるはずです。