山梨から世界に誇れる商品づくりを。技術の可能性を信じて開拓した新市場。
武蔵エナジーソリューションズ株式会社
代表取締役社長 髙橋 航史
愛知県(豊橋市)生まれ。
1994年 愛知県のアパレル会社入社。
1999年 武蔵精密工業株式会社入社。品質保証業務に従事。
2014年 Musashi Auto Parts India取締役 品質保証責任者就任。
2017年 Musashi Auto Parts Indonesia代表取締役社長就任。
2020年 武蔵エナジーソリューションズ株式会社 子会社化、代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
未経験から製造業へ、そして期間社員から社長へ。
武蔵エナジーソリューションズは、高い出力密度とエネルギー密度を兼ね備えた新しい蓄電デバイス「ハイブリッドスーパーキャパシタ」を製造する会社です。愛知県で自動車部品を製造する武蔵精密工業株式会社の100%子会社として、2020年に現在の社名となりました。
私は武蔵精密工業で16年ほど、品質保証部門やその責任者としての業務に従事していました。25歳で入社した当時の雇用形態は期間社員で、しばらくして正社員に登用されました。前職はアパレル系で製造業は未経験だったにもかかわらず、目をかけて引き上げてくれた上司や社長には本当に感謝しています。
また、工学部などのバックグラウンドがなくても活躍の土壌があるのは、当社の大きな特徴かもしれません。
キャリアの後半では海外拠点で取締役や社長を務めたあと、武蔵エナジーソリューションズの子会社化プロジェクトに携わり、そのまま社長職を拝命しました。同時期に山梨に移住してもうすぐ5年が経過しますが、とても自然が豊かで素晴らしい場所だと思っています。
キャリアで難しい局面にぶつかっても自ら学び道を切り拓いた。
20代で武蔵精密工業の製造現場に配属された当初は毎日のタスクで難しいと感じることが多かったものの、社内には自己研鑽の風土があり、私も自然と品質工学を自分で勉強するようになって得た知識を仕事に活用していきました。業務内容は新しいモデルの立ち上げや海外支援が主でした。
入社して10年ほど経った30代半ばで管理職となり、その2年後にはインドへの駐在が決まりました。当時はインド国内の自動車やオートバイの需要拡大に対応するため、武蔵精密工業がかなり大型の投資をした時期でした。
現場には4,000人の社員がいましたが、人が増えすぎて作業レベルに差が出てしまい、オペレーションに問題を抱えていたのです。そこで、私が品質保証責任者として現場の立て直しを図ることになりました。
3年ほどインドで仕事をした後、今度はインドネシア工場へ渡り、拠点長・社長を務めました。経営の経験などまったくなく、現地の文化や慣習を学びながらなんとか2,000人の社員をまとめる仕事に奮闘していました。
そしてインドネシアの駐在が2年を過ぎた頃、日本に戻って山梨県に移り住むことが決まり、今に至ります。グローバルな会社なので海外も含めて点々とする生活でしたが、様々な経験ができて学びの多いキャリアだったと思います。
海外との取引が停止。社長就任と同時に直面した最大の試練。
武蔵エナジーソリューションズの前身の会社は2007年に創業し、長きにわたってハイブリッドスーパーキャパシタを開発・製造してきました。技術力は世界一と言われていましたが事業採算性に課題を抱えており、株式譲渡の話をもらいました。
そして、「武蔵グループとして電動化時代のキーデバイスとなる蓄電デバイス事業の立ち上げ、このテクノロジーを活かし社会課題の解決に貢献する」という考えから、完全子会社化に至ったそうです。
新たな社名に変わる直前の2019年は、メイン市場である中国での事業成長を見込んでいました。しかし2020年に入ってコロナ禍が到来し、海外との取引はすべて頓挫。社長就任の初年度から予定していた仕事がすべてできなくなったのは、とても大きな壁でした。
また社員にとっては「新しい社長が来たけど、これから会社はどうなるんだろう」という不安がある中で、コロナ禍によって社内の交流もストップしてしまい、社員との十分なコミュニケーションができないジレンマもありました。
逆境からの挑戦!モビリティからデータセンター分野への転換。
中国をはじめ海外との取引ができなくなった2020年から2年ほどは、モビリティ領域でなんとか活路を見出せないか模索を続けました。しかし、モビリティ領域には世界中に競合のデバイスがたくさんあります。当社はコスト面で他社に負けてしまい、話が進んだとしても結局は採用に至らないという流れを繰り返していました。
そこで視点を切り替えて、テクノロジーの最先端であるアメリカへ市場調査に行き、データセンタービジネスへの進出を決めました。それが2022年後半のことです。
それまでのデータセンターはサーバーにデータを溜める形式が一般的でしたが、ちょうど同時期にChatGPTなどの生成AIが出てきて、データセンターのあり方が変化していました。電力使用が非常にタイトになる中、まさに当社の製品がその課題を解決できるということで、ありがたいことに引き合いが多くなって事業成長につながりました。
社長就任から3年ほどは、「当社の技術が役に立つ分野はないか」とあの手この手で試行錯誤していました。出口が見えず焦りが募った時期もありましたが、あらゆる方面への種まきをし、データセンターや欧米市場へとシフトチェンジしたことで「1-10」の事業成長フェーズに進んでいます。
採用基準は「情熱」。事業拡大に力を注ぎ、共に歩む仲間を募集。
当社が採用活動において重視するのは「情熱」です。私自身がもともと製造業は未経験で、キャリアのスタートも期間社員でしたから、スキル・学歴・年齢などはまったく関係ありません。私も入社してから知識・技術を身につけたので、スキルは後からいくらでもついてきます。「世の中のために役に立ちたい」という想いを持っている方とぜひ一緒に働きたいですね。
実際、当社では若手からベテランまで活躍している社員がたくさんいます。開発の業務などでは「あなたはここからここまでの分担」というように仕事のレイヤー分けは一切しません。入り口から出口まで一貫して携われるのは、他の会社ではなかなかできない経験だと思います。
武蔵精密工業の大塚社長は創業家の3代目で、40歳でグループの代表になったとてもエネルギッシュな方です。面白そうな人材だと思ったらどんどん引き上げていくタイプのため、当社もその雰囲気を受け継ぎ、社内では幅広い才能を発掘して成長を促す風土があります。
当社は山梨から世界に出て戦っている企業ですので、自分たちの作った製品が世界中で使われることに対して誇りを持って仕事ができると思います。ぜひ地元の人財も積極的に採用しながら、事業を一緒に大きくしていける仲間を集めたいですね。
社会貢献と地域活性化を目指し、これからも挑戦は続く。
当社が製造する蓄電池は、今ようやくマーケットが見え始め、社会のお役に立てるベースができつつあります。お客様の需要に対応するためにも、まずは現行の工場に投資をして生産能力を上げること、そして新工場の準備も急ぎ進めていく必要があります。
2024年5月には三菱電機と業務提携し、鉄道業界向けの次世代蓄電モジュールとバッテリーマネジメントシステムの共同開発を開始しました。世界的にカーボンニュートラルが求められる昨今、鉄道においてもCO2排出量や消費電力の削減は喫緊の課題です。
まずは鉄道分野で新しい蓄電技術を確立させ、ゆくゆくはそれを応用して安定的な電力活用を実現し、社会インフラ全般への貢献度を高めたいと考えています。
地元・山梨に対しては、雇用創出はもちろん、事業で得た利益を税金という形でしっかりと還元します。やはりお金がないところに人は集まりませんし、経済のサイクルも生まれません。
当社の利益を還元することで、少子化・高齢化対策など、市や県がより良い施策を打ち出せる基盤づくりに貢献したいと思います。そして山梨があらゆる世代の人にとって魅力的な地域となり、ますます地域が活性化する好循環の一助となれば幸いです。