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ブレーキ分野でシェアトップクラス。車の安全に貢献する技術を世界に提供。

株式会社キリウ
代表取締役社長 武岡 一満

栃木 更新日:2024年8月28日

1991年、住友商事株式会社に入社。鉄鋼部門に配属となり、鉄製品の輸出入・事業投資を担当。その後、鉄製品の一つである自動車部品製造事業に携わる。1996年から2002年までタイ住友商事、2010年から2015年まで米州住友商事に、それぞれ5年半駐在。帰国後、2015年から2018年まで、自ら志願して自動車部品メーカーに出向、自動車部品製造事業に関する経営のノウハウを学ぶ。再度住友商事に戻ってからは、輸送機・建機事業部門の自動車製造事業第二部長・モビリティ事業第一本部長補佐を歴任。2022年に非常勤取締役として株式会社キリウを担当。2023年より同社の代表取締役社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

快適なモビリティ社会の実現に欠かせないブレーキ。

キリウは住友商事グループの自動車部品製造事業の中核を担う、鋳造・機械加工の専門サプライヤーです。当社が製造しているのは、「走る」「曲がる」「止まる」といった自動車の基本性能を支えるブレーキの重要保安部品。中でも主力のブレーキディスクは国内市場30%、グローバル市場で見ても11%と、トップクラスのシェアを誇っています。

キリウが自動車部品の製造を開始したのは1960年代。以来、着実に技術を蓄積してきました。当社の強みは金型・生産設備の内製を含め、開発・設計から生産・販売まで一貫で行う「一気生産」システムにあります。

工程やツール、働くスタッフの技術レベルを高い水準で均一化・内製化することにより、徹底した無駄の排除を実現。世界のどこでも同じ性能・品質を同時に提供できます。現在、当社のネットワークは8カ国16拠点に広がっており、6,000人以上の仲間が同じ目的に向かって汗を流しています。

今や、車は大きく変わりました。内燃機関で動いていた車にハイブリッドタイプが登場し、さらに電動車が現れ、世界中の市場に浸透しつつあります。しかし、車がどれだけ変わろうと、「走る」「曲がる」「止まる」といった根幹の部分を司るブレーキの重要性が変わることはありません。

電動車は電気的に動きを止められますが、急停車などの際には機械的なブレーキが不可欠で、当社の部品は電動車化してもなくなることはありません。キリウならではの重要保安部品の開発・生産を通じ、安全で快適なモビリティ社会の実現に貢献するという役割を当社は今後も担っていきます。

キリウにポテンシャルを感じて社長就任を志願。

私は住友商事に入社し、当初は鉄の部門に、やがて鉄を使った自動車部品を作る部門で仕事をしました。タイやアメリカなどにも長く駐在し、また自動車部品メーカーに3年ほど出向した経験もあります。そして、住友商事が全世界で行う自動車部品製造の領域を統括する事業の責任者に就任、非常勤取締役としてキリウに関わるようになりました。

そこでキリウにポテンシャルを感じたため、「ぜひ自分に経営の舵取りをやらせてほしい」と志願。2023年から代表取締役社長を担うことになりました。もともと私はものづくり事業がとても好きだったから、という理由もあります。

非常勤取締役として初めてキリウに来た頃はコロナや業界の半導体不足の影響もあり、業績が思うように伸びない時期でした。一方で社内を見ると、工場、製造技術、開発、経営管理、営業、購買といった部門があり、規模が大きい中で縦割りの組織となっていて部門間の連携が進んでいない印象を持ちました。

また組織の階層が厚く、現場や若手・中堅の声が上司・部門の責任者に届きにくくなっていました。そこで、「チーム経営」を掲げて各部門の責任者で構成された経営会議を開催し、みんなで意見交換しながら経営を進めるスタイルを採り入れました。

現場、若手から経営層までのコミュニケーションを良くする活動も始めました。社長となって以降、全管理職とランチを取りながら面談しましたが、そこで「コロナ禍により社内イベントがなくなり、社員同士の会話が減った」という声を多く聞きました。

これを何とかするため、バーベキュー大会など誰もが気軽に参加できるイベントの再開に向けて関係部署が準備を始めています。コミュニケーションが活発化しないと、社内の雰囲気は良くならないし、社員のモチベーションも向上しません。まだ始めたばかりですが、少しずつ成果を出していきたいです。

また、いずれはこの会社で働いている人の中から経営者が出てほしいと考えているので、特に経営者人材の育成には積極的にかかわっています。

100年に1度の変革の中、果敢に挑戦。

自動車業界は今、100年に1度の変革期にあります。CASE(通信機能・自動化・シェアリング・電動化)の進展により、モビリティ社会は大きく変貌しようとしている一方、カーボンニュートラルへの対応も待ったなしです。

社長に就任してから全社員に「基本に立ち返ろう」「果敢にチャレンジしよう」という二つのメッセージを発しました。基本に立ち返る、とは、「自動車関連の中でも最重要の保安部品であるブレーキを扱っているのだから、職場の安全や製品の品質に関してはトップレベルを維持しよう」ということ。やるべきことをしっかりやっていこう、と再確認したわけです。

一方、変革の時期にあるのだから、今まで通りを安閑と繰り返していればいい、というわけにはいきません。ブレーキは決してなくなりませんが、事業のポートフォリオは変わります。今は日系メーカーのシェアが高い状況ですが、中国やインドでは現地系メーカーの存在感も増しており、現地メーカーからの受注も増えています。

また、電動車の需要が一段落し、今は再びハイブリッド車に注目が集まっています。ハイブリッド車に関しては国内メーカーにアドバンテージがあるので、国内メーカーもかなりの台数を積み上げるはずで、国内メーカーとのパートナーシップを更に強固にします。市場の変化を先読みして、的確に対応していかねばなりません。

このように刻々と市場が変わっていく中でキリウが独自の価値を発揮し続けるには、座して待つのではなく、果断に打って出るチャレンジが欠かせません。変化に柔軟に対応するためインドに新工場を建設するなど、会社としても積極的に動いています。現場の社員も同じ意識で課題に臨んでいます。

もう一つの重要な課題がカーボンニュートラルです。2023年、当社は新工場を竣工しました。従来、コークスを熱源として鉄スクラップを溶解するキューポラを稼働させていましたが、これを新工場では電気炉に変更。これにより、CO2排出量を30%削減できます。

また、電力として太陽光や風力といった再生可能エネルギー由来のものを利用しようと、メキシコやインド、タイで取り組みを始めています。電気炉化や再生可能エネルギーの利用により、理論上で二酸化炭素を一切排出しないゼロカーボンブレーキディスクも開発中です。

政府は2050年のカーボンニュートラル実現を目標としていますが、当社としてはこれを前倒しで実現することも現在検討中で、必要な改革を実行していきます。

多様性のある風土の中で、チャレンジ精神を発揮してほしい。

キリウの歴史を紐解くと、もともとは「織物機械メーカー」として1906年に創業しました。当時は日本で繊維産業が成長しようとしていた頃でした。その後、戦時中には工作機械、戦後には再び平和産業である織物機械製造にも回帰しました。そして自動車産業の成長を先取りして現在の姿になりました。

当社は時代の変化を先取りして、しなやかに自分たちのビジネスモデルを変化させてきました。これからも世の中の変化を一歩先取ってチャレンジし続ける会社、社員でありたいです。組織が大きくなると「失敗すると責任を取らされる」となりがちですが、何もしないよりもチャレンジをし、失敗してもしっかり評価して前進の糧にしていきます。

一方でコンプライアンス意識をしっかり持ち、当たり前のことを当たり前にやる姿勢も大切です。キリウの社員は全員とても真面目で、愚直に安全や品質を追求している。これがキリウの強みであり、今までの歴史を作ってきた原動力だと実感しています。

当社にはいろんな背景を持つ人が働いています。私のように非製造業から来た人もいれば、他メーカーから転職してきたキャリア採用組もいるし、海外からやってきた人もいます。そういった意味で、ダイバーシティ&インクルージョンにも対応できていると感じます。

これは昔からそうだったようで、世の中のニーズを先取りすることで自らを変革することに長けている会社なのです。そういったDNAを活かし、多様性のある風土にしていきます。

人材育成・開発に関する改革も進めています。私は前述の通り、キリウで長く勤めていた人の中から経営幹部が出てほしいと考えているので、中堅クラスの幹部候補層を経営人材として育成するプログラムに、かなり力を入れています。若いうちから様々な部門に登用し、海外の拠点長も経験してもらうなど、経営幹部として成長できるキャリアパスを準備しているところです。

私は、製造業出身ではありません。だからこそ旧来の常識にとらわれず、古い慣習を打ち破り、新たな価値の創造に貢献できると感じています。この会社のポテンシャルを最大限に開花させ、その価値をグローバルに広めるため、私自身も使命を全うしたいと思っています。

編集後記

チーフコンサルタント
鎌田 真知子

歴史的な円安を背景に自動車メーカーの好業績が伝えられる一方で、人件費や原材料高騰の影響を受ける国内サプライヤー各社が収益を上げていくのは容易ではないだろうと想像していました。

当日のインタビューでは、クライアント企業に対し武岡社長自らが販売価格の見直しや設備投資費用の価格転嫁を交渉したというエピソードをお伺いできました。「自動車業界の商習慣を変えたい」「部品メーカーの業界地位を向上させたい」と楽しそうに話されるご様子に、会社全体で100年に一度の変革期に挑まれている力強さを感じました。

私自身も、人材のマッチングを通じて日本のものづくりに微力ながら貢献できることの喜びを感じながら、同社の魅力を一人でも多くの方に伝えて良いご縁をつないでいきたいとの想いを新たにしました。

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