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個人の幸せを起点とした社会価値の創造。地方発サステナブルな社会の実現へ。

株式会社フィット
代表取締役 鈴江 崇文

徳島 更新日:2023年8月30日

徳島県徳島市生まれ。大手ハウスメーカー、住宅フランチャイズ会社を経て、家業のゼネコンの経営に参画。その後、2009年に徳島市にて株式会社フィットを設立、創業7年で東証マザーズ(現:東証グロース市場)上場を果たす。巨大資本が担う日本のエネルギー供給を一人ひとりの手に取り戻したいという思いで「個人参加型、持続可能エネルギー社会の実現」をビジョンに、全国にクリーンエネルギー発電所、スマートホーム等を開発。事業を通じて、お金の心配がない新しいライフスタイルづくりに挑戦している。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

個人参加型、持続可能エネルギー社会の実現。

当社は「サステナブルな社会の実現」を目指し、再生可能エネルギーに関連する商品やサービスを提供している会社です。主に「クリーンエネルギー事業」「ストック事業」「スマートホーム事業」の三事業を展開しています。

一つ目の「クリーンエネルギー事業」では、コンパクトソーラー発電所の設計、設置、管理を個人投資家向けに提供しています。ソーラーパネルの設置場所は多岐にわたり、遊休地や農地、オフィスや工場の屋根などに設置を進めています。

二つ目の「ストック事業」は、クリーンエネルギー事業で販売したソーラー発電所の保守、収益不動産の管理受託等を行っています。メンテナンスを通じてソーラー発電設備の性能を向上させ、資産価値の向上を目指しています。

最後に、「スマートホーム事業」では、ソーラー発電システムを搭載した住宅の企画販売を行っています。オーダーメイドではなく、規格型コンパクト住宅に特化することで低価格・高品質の両立を実現しています。

再生可能エネルギーといえば「インフラ」であり、大企業や国が取り組んでいるイメージが強いかもしれませんが、当社はBtoBではなく、BtoCに特化したサービス提供が特徴です。これら三つの事業すべてにおいて、法人ではなく個人がメインターゲットであり、実績においても大部分が個人のお客さまです。

また、BtoC領域で長年事業を続け、設備の規格化、工程のマニュアル化、効率化などに取り組んできましたが、そうした過程で培ってきたノウハウこそが競争優位性になっていると考えています。

「一方通行」から「循環型」への転換。

2009年に徳島市に会社を設立し、住宅産業をメインにビジネスを展開してきました。ただ、四国は年々人口が減少し、東京の一極集中は加速。地方と都会の差がどんどん拡大しています。また、今の日本は給料が上がらず、社会経済の不安もあり、「未来が見えない」と感じている人もいるかもしれませんが、そうした考え方を変えたいとも思っていました。

住まいや不動産、大きな意味では投資みたいなことも含めて、「個人」の暮らしに役立つ事業とは何かを、考え続けていました。そうした想いを抱き、世界を旅しながらヒントを模索していましたが、2011年のドイツ視察が私の運命を変えたように思います。

ドイツの視察では、住宅をメインに視察していましたが、田舎町にある太陽光発電所も見学しました。フランクフルトから3時間くらいの街でしたが、ものすごく美しくて活気に溢れていたことが印象に残っています。

そして見学の際に、「kWh = Euro」みたいなことを言われたのですが、私はこの時、「これは大きなヒントになり得るな」と直感しました。屋根の上にある太陽光発電所は、「電気=お金」を生み出しているという考え方です。

太陽光発電所へ「個人」が投資すれば、その電気が「循環」して自分たちに還ってくるという趣旨の話があり、とても面白いと感じました。電気を使うと電気料金という形で電力会社へお金が支払われます。そして、電力会社は燃料調達などで海外へ支払いを行います。要するに、お金の流れが一方通行になってしまい、お金が地域に循環しにくく、サステナブルではないのです。この「循環」させるという考え方は私に大きな影響を与えてくれました。

また、当時のドイツは創エネだけでなく省エネもセットで推進しており、そもそもエネルギーを使わなくていいように断熱工事などにも補助金を出していました。エネルギーを使わないから出ていくお金も減り、地域にお金が残り、人々の暮らしがより良くなっていったようです。

これを日本に持ち帰ってメイン事業として推進しようと決めたのが2012年のことです。当時は、エネルギーは無尽蔵にあり、絶対になくならないとみんなが思っていました。ただ、今ではコロナや戦争の影響もあり、エネルギーは自分たちで生み出さないといけないという危機感が以前よりも強くなったように感じます。

そうした中で、私はエネルギーの活用にも選択肢が必要だと思っています。「電力会社から買う」という選択肢に加えて、自ら発電し、自ら消費する「自家消費」という選択肢です。そして、自家消費のリターンとしてお金が戻ってくれば、その地域での個人消費も増えていくはずです。そうすることで、お金の流れが一方通行だけではなくなり、地域内で循環するようになっていくと考えています。

日本の住宅の「負」を解消する。

私は創業にあたり、日本の住宅に対する考え方や常識に疑問を持っていました。日本では新築の家を購入すると、基本的にその価値が下がってしまいます。一方、欧米では新築から数十年経っているにも関わらず、価値が上がることもあります。

また、住宅購入の際、感情に流されてしまう方が多いことも気になっています。広い居住面積が必要なのは子どもが巣立つまでの10年程度なのですが、一生に一回だからと、その10年のために大きな家を建ててしまう方が多くいらっしゃいます。もちろん、様々なことを理解して、納得して購入するのであれば問題ありません。ただ、アフターメンテンナンスなどについて感想を伺っていると、多くの方が「老後を考えると、こんなに大きな家は必要なかった」と言います。

私は、家の持ち方は、本来は3~4回住み替えることを前提に考えるのが効率的だと思っています。ただ、それが成り立つのは都市圏に限られ、地方都市だとエリア的に難しいのも理解しています。

また、都市圏ではマンション価格も上昇しており、マンションの資産価値が買った時よりも上がったという方も多数いらっしゃいますが、地方都市の場合は買ったときから資産価値が下がり続けるのが一般的な傾向です。

もちろん地方都市でも一部のエリアは上昇していますが、基本的に資産価値は下がっていくトレンドにあります。それでも、みんな家が欲しいんです。私の妻だって「家が欲しい」と言っていましたから(笑)。

そうであれば、できるだけ買いやすく、「負」の少ない住宅を提供したいと事業を考えてきました。例えば、家が2,000万円で購入できたとしても、35年間で500万円程度の光熱費が必要になります。これをゼロにできたら、不動産の値下がりがあったとしても、日々の負担は減らすことができます。そして、電気自動車が普及していけば、光熱費だけでなく、燃料費(車の電気代)までゼロにできる可能性があると考えています。

脱炭素やサステナブルな社会の実現という概念を尊重しつつも、多くの人は自分の「暮らし」や「資産」のほうが大事です。だから、実利として今よりも個人が豊かになれる選択肢を提供して、結果的にサステナブルな社会の実現に近づいていければ、という想いでこの事業に取り組んでいます。

また、個人が豊かになることは重要だと思っていますが、同時に地球が健康でなかったらカッコ悪いとも思っています。私自身も昭和や平成の時代はがむしゃらに仕事に取り組んできましたが、現在は価値観が変わってきたように思います。

今は、社会に役立つ事業に携われていることや、ビジョンに純粋にチャレンジできること自体が幸せに繋がるのではないかと思っています。私もこの事業を通して実現したいことが明確になっており、自分自身の中で筋が通っているので、今は迷いなく事業を推進しています。

需要が拡大していく「自家消費」マーケット。

再生可能エネルギーの普及にあたり、大きな役割を果たしてきたのがFIT制度(固定価格買取制度)です。この制度は、再生可能エネルギーを用いて発電した電気を、国が定める価格で一定期間、電力会社が買い取る制度です。2012年7月からスタートし、再生可能エネルギー導入率は飛躍的に拡大しました。

しかし、FIT制度の買い取り単価の低下もあり、再生可能エネルギーのマーケットは魅力がなくなったと思われる方が多いかもしれません。ただ、FIT制度の目的は再生可能エネルギーの普及です。FIT制度による「投資」的なマーケットは縮小していますが、再生可能エネルギーの普及が進んだ今、「自家消費」のマーケットは間違いなく拡大していきます。

FIT制度が始まった2012年7月と比べ、太陽光発電の設備投資コストは1/3程度まで下がっています。薄型テレビが普及した当初は1台100万円もする時代がありましたが、今では10万円程度に下がりました。同じように、太陽光発電の設備投資コストも下がってきています。

私自身、様々なシミュレーションをしていますが、自分で電気を作って自分で使う「自家消費」が1番安いんです。今の電気料金の1/3から1/4程度の単価で電気を使うことができます。そして、設備投資コストが下がっていけば、自分の意思で発電に投資できるレベルになってきます。今は過渡期ですが、再生可能エネルギーの本番はこれからなのです。

また、世界的なSDGsのトレンドもあり、クリーンな再生可能エネルギーの需要は高まっていて、日本を代表するような大企業等からも電力供給の相談をいただくことが増えています。ただ、ニーズがあっても供給サイドには用地不足という大きな課題があります。FIT制度により広大な平坦地は開発されていますし、山を削って開発するような時代でもないため、太陽光発電に適した土地がなかなか見つかりません。

そうした中で、太陽光発電が新設できる可能性を秘めているのが地方なのです。もちろん規制の問題もありますので簡単ではないですが、我々がさらにノウハウを高めていくことで、地方に貢献できる取り組みを推進していきたいと考えています。

自分の「好き」を追求する挑戦者を求める。

当社は「サステナブルな社会の実現を新しい常識で」をパーパスとしており、「個人」が参加できるサステナブルな社会の実現を目指しています。また、徳島に本店を置く企業として、地方だからこその競争優位性をもって事業に取り組んでいます。

採用に関しては、まずは私たちのパーパスやビジョンに共感していただける方々にジョインいただきたいと考えています。そして、私が一貫して大事にしていることは、「好き」を持っている人かどうかという視点です。

何かしら「好き」を持ち、「好き」を追求する人と一緒に働きたいと思っています。なぜなら、「好き」だと「上手」になるからです。例えばトヨタさんだったら「車が好きな人」といったイメージですが、私たちであれば「脱炭素、住まい、地方創生などが好き」という人と一緒に働きたいです。

また、新人にはよく「ぶりっ子はしないように」といったメッセージを伝えています。聞いたら恥ずかしいとか、失敗したらどうしようとか考えるなと。ダサくてもいいから、とにかく「チャレンジ」してみることが大事だと伝えています。自分なりの想いをもって挑戦したいと言える人と、私は一緒に仕事がしたいです。

最後に、企業全体として効率化や規格化などのスキームを構築しており、働きやすさも含めて組織としての成長を感じています。また、マネジメント層に役割と責任を担ってもらい、成長に向けてしっかりと勝負できる組織体制になってきたように思います。

ただ、正直なところ課題はまだまだあります。そうした課題も前向きにとらえて挑戦したいという仲間と、サステナブルな社会の実現に向けて一緒に汗をかいていきたいですね。

編集後記

チーフコンサルタント
吉津 雅之

今回のインタビューでは、鈴江社長の事業への想いをじっくりと伺うことができました。再生可能エネルギーと聞くとイメージが湧きにくい方も多いかもしれませんが、「起業家として何を解決しようとしているのか?」という想いが明確で、とても刺激的な時間となりました。

個人にフォーカスした地方ならではの強みを持つ事業でもあり、地方創生の先進事例になる可能性も秘めています。今後も四国・徳島から新しい社会価値を創造するチャレンジに注目です。

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