AI活用で“快適提供の場”を創り、「地域コネクティッドビジネス」を拡大。
サツドラホールディングス株式会社
代表取締役社長 CEO 富山 浩樹
1976年9月5日生まれ。北海道札幌市出身。札幌大学経営学部卒業。1999年4月ダイカ株式会社(現:株式会社あらた)入社。2007年10月株式会社サッポロドラッグストアー入社。09年10月業務改革推進室長、10年4月営業本部長、11年5月取締役、12年5月常務取締役、15年5月代表取締役社長、16年8月サツドラホールディングス株式会社設立、代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
AIによって“快適な場”の価値は高まる。
生成AIが人間の生活に大きな変化をもたらすのは間違いありません。自動化や効率化によって、人々はより多くの自由と時間を手に入れるでしょう。となると、「その自由と時間をどう使うか」というテーマが浮かび上がります。一人で自由を持て余して孤独に陥ったり、不規則な時間の使い方で健康を害したりといった問題が出てくるかもしれません。
私は、AIによって人々の自由な時間が増えるようになった時代こそ、人々が一緒に過ごす“場やコミュニティ”の価値が高まる、とにらんでいます。サツドラホールディングスの創業事業であり、主要マーケットでもあるドラッグストア業界においても、AIの影響は大きく出てくると思います。
その点を見越し、私たちは早くから、AIカメラを利用したソリューション事業を展開するAWL株式会社と提携。AIカメラによる売場分析や、デジタルサイネージと連携した店舗オペレーションなどの実証実験に取り組んでいます。
これらはAI活用のほんの一例に過ぎません。AIはもっと大規模に社会に浸透し、ビジネスの有り様を変えるでしょう。定型的な事務作業は、ほとんどAIが担ってくれるようになります。そうやって生まれた時間を使えば、サービスを充実させるため、あれこれ試行錯誤もできるはず。それらの工夫を、“場やコミュニティ”づくりに活用すれば、店舗はさらに進化すると思います。
ホスピタリティー溢れる“場”に、人は集まる。
ドラッグストアは、言わば「日常の生活と健康を支えるインフラ」です。2025年には団塊世代が75歳以上になり、認知症患者が急増すると予測されるなど、日本の医療状況は大きく変化します。労働人口の減少が続く中、これらの状況に対応するには、自動化の導入が欠かせません。
自動でできることはAIに任せ、どうしてもAIにできないこと、すなわち生身の人間によるホスピタリティー溢れる対応の重要性が増す。人間的な魅力に溢れた人々の作り出す、居心地の良い“場”にお客様は集まってくる。そんな時代になるのではないでしょうか。
医療に関する専門的な相談は、“場”と専門家をオンラインで結べば、いつでもできます。では、「“場”をつくるスタッフの役割は何か?」人と人の出会いを促し、励まし、日常を支えることです。
専門家に相談するにしても「誰に聞けばいいかわからない」と迷う人に、サジェッションを行う。ITに不慣れな人に機器操作を教え、専門家とのアクセスをサポートする。ホスピタリティー豊かなスタッフに会いたいから、人々が集まってくる。店舗は、そんな“場”を目指すべきです。
ドラッグストアばかりではありません。教育の分野も同じです。当グループでは、起業家・エンジニア養成スクールの運営を通してプログラミング教育も提供していますが、そこでは講師は教室にいません。東京からオンラインでつないで指導を行なっているのです。
では教室にいるコミュニティマネージャーは何をやっているのか。生徒たちの交流を促し、励まし合うコミュニティを育て、学習意欲を高めるようサポートしています。AIによって、ビジネスや社会が変化する。そんな未来を想像するとワクワクしますね。
ドラッグストアは「重要なインフラ」。
コロナ禍は当グループの事業にも多大な影響を及ぼしました。一方、再認識したのがドラッグストアの「インフラとしての重要性」です。コロナ禍当初、マスクを求めて人々が長蛇の列を作ったのは記憶に新しいところですし、消毒液や衛生用品の売れ行きが急拡大しました。
また人々は密の状況を避けるため、1ヶ所で、短時間で買い物を済ませるようになりました。サツドラでは食品を多く取り扱っており、生鮮食品の拡充も進めていました。サツドラに来ると欲しい物が揃うので、人々に満足と安心を提供できたのではないかと思います。
プライベートブランド(PB)への注力も正解でした。コロナ禍だけでなく物価上昇に見舞われ、お客様の生活防衛意識が非常に高まる中、リーズナブルで高品質のPBは業績の牽引力になっています。
デジタル化を積極的に進めていたのも良かったと思います。コロナ禍で、オンラインやキャッシュレスが急速に普及し、もっと時間がかかると予測していたオンライン診療・服薬指導も可能になりました。もしデジタル化を怠っていたら、これらの変容に対応できなかったでしょう。
コロナ禍によって「生活のインフラ」としての私たちの価値は、いっそう高まりました。その価値を充実させるため、“場”づくりが重要になるのは間違いありません。
EZOCAをハブに、生活総合サービスを提供。
サツドラホールディングスは2019年、「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」という新たなビジョンを打ち出しました。そのビジョンを達成するため、中期経営計画で、以下の3つの成長戦略を掲げています。
1.「店舗の生活総合化戦略」モノやサービスを総合的に取り扱い、地域の人々の利便性を向上させます。
2.「地域プラットフォーム戦略」北海道共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」を軸に、地域のプラットフォームとしての機能を拡大・強化します。
3.「コラボレーション戦略」地域の多様なプレイヤーとの連携を通じ、地域課題の解決に取り組みます。
サツドラ店舗が、地域課題を解決するプラットフォームになる。それが私たちの構想する「地域コネクティッドビジネス」です。店舗は単に商品だけではなく、生活総合サービスを提供する“場”となります。
その一環として2020年から始まったのが、江差町との包括連携事業です。江差町では「江差EZOCAによるポイントを通した地域連携」や「サツドラの管理栄養士による栄養相談」などが始まっています。地域公共交通を維持するための実証実験「江差MaaS(次世代型移動サービス)」は、もう第2フェーズに入り、2023年秋には第3フェーズに入る予定です。
江差町での実績を基盤に、上川町、函館市、小清水町、当別町などと協定を締結。自治体ばかりでなく、学校や企業との提携も拡大しています。地域コネクティッドは、さらに広がっていくでしょう。
地域コネクティッドモデルは、全国に通用。
EZOCAは現在、210万人にご利用いただいており、将来的には300万を目指します。数も大事ですが、より重要なのは利便性の向上です。
人口減少が進み、2025年には北海道の半数以上の町が5,000人以下になると試算されます。5,000人以下の町では、行政も企業も単独でのサービス維持が難しくなるでしょう。その解決策が、人々の集まりやすい“場”です。その中であらゆるサービスを提供できるようにすれば良いのです。
医療や健康の問題は、オンラインによるバーチャル診療室が解決する。専門家とのアクセスは、その“場”にいるリアルなスタッフがサポートする。そしてEZOCAが決済手段として機能すると、人々はシームレスで快適に生活サービスを受けられるでしょう。
江差町では、有料コンテンツ配信を行う会社と契約し、コミュニティスペースで映画上映会を開催しました。これは、ローカルでは、エンタメ施設も減少している、という事情を勘案しての試みです。もちろん、配信コンテンツは自宅でも楽しめますが、みんな揃って見ることで、感動空間を共有できます。実際、上映後の交流会は大盛り上がりでした。
北海道コンサドーレ札幌のオフィシャルパートナー契約を結ぶのも、“場”づくりにおけるエンタメの重要性を認識しているからです。コンサドーレとは、EZOCAを基盤とするサービスの充実やマーケティング分析など、多面的に連携しています。
当グループが構築しつつある地域コネクティッドモデルは、過疎の進む全国のあらゆる地域に適用できるでしょう。その点でも、可能性は大きいと考えています。
時代はAIや多様化を求める中、サツドラが求めているのは「人間らしい」人材。
当社が求める人材は、一つはAIなどの先端技術をどんどん取り入れ、地域コネクティッドに必要な変革を実践してくれる人材です。何かをしたいという意志や好奇心を持ち、自ら動く人材の価値は増すでしょう。
次に、相手の気持ちを理解し、人に喜んでもらうため誠実に行動できる人材です。人の笑顔を自らのモチベーションとできる人は、快適な“場づくりに欠かせません。
生半可なクリエイティブはAIに取って代わられる可能性が高まり、より創造性の高い仕事の価値が高まっていくでしょう。地域コネクティッドビジネスの意義を理解し、果敢に挑戦できる人。地域の人々のため、全力を尽くせる人。そういった方々と、新たなモデルを構築していきたいですね。