キャリア採用がもたらす組織の進化。個々人の成長を原動力に、次なるステージへ。
九電みらいエナジー株式会社
常務取締役 事業企画本部長 寺﨑 正勝
福岡市生まれ
1982年 九州電力株式会社 入社
2007年 経営企画室 地域戦略グループ長就任
2010年 社長室 副室長(経営政策担当)就任
2012年 株式会社九電ビジネスフロント 代表取締役社長就任
2014年 九電みらいエナジー株式会社 取締役 企画本部長就任
2019年 取締役 事業企画本部長就任
2020年 常務取締役 事業企画本部長就任
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
設立から10年。再生可能エネルギー業界での確かなポジショニングを実感。
当社は2014年7月に設立。間もなく丸10年を迎えます。『SPEED&CHALLENGE』をモットーに、常にトップスピードでさまざまなチャレンジを続けてきました。その成果として、今一番感じることは、当社の名前を知ってくださっている方が増えたことです。
これまでは「私たちは九州電力の100%子会社で、再生可能エネルギーの開発を手掛けている」というところから一つずつ成り立ちも含めて説明しなければいけませんでした。しかし最近では、社名を伝えるだけで一定の理解を示していただけることが増えました。エネルギー業界におけるユニークな存在として、一目置いていただけるようになってきたことを嬉しく思っています。
一方で、電気をはじめ、私たちの生活になくてはならないエネルギーですが、それにも関わらず、よくご存知ない方が多いのが実情です。それもそのはずで、例えば小学校や中学校においてエネルギーについて学ぶ機会はほんの限られた時間しかありません。せいぜい、エネルギー資源にはざっくりどんなものがあって、中東が油田地帯であるとか、資源の可採年数とか、その程度ですよね。「そもそもエネルギーとは何か」、「どのように作られていてどのように使われているのか」、「本質である日本のエネルギー事情は」といったことを知る機会は不思議なほど少ないのです。
エネルギー問題に対する関心の高まりを受けて。
「例えば10年、20年前までは、石油や石炭を掘ることは簡単でした。それを掘るのに『1』のエネルギーを使って、『20』のエネルギーを取り出すことができたとします。すると『エネルギー効率』は20倍となります。これが今はどうでしょう。石油も石炭も当然、限りある資源ですから、量は減っています。同じ『20』のエネルギーを取り出すために、1000メートル、2000メートル掘らないといけない、海洋にやぐらを建てないといけない、といった具合に『2』のエネルギーがかかったとします。するとエネルギー効率は10倍、つまり従来の半分になってしまっているのです」と。
さらに、「もっともっと効率が悪くなっていくと、私たちの当たり前の生活を維持することすら危うくなってしまうかもしれません」と続けると、皆さんどんどん真剣な眼差しになっていくのです。
特に最近では地球温暖化、電力の需給逼迫による節電、電気代の高騰といった身近な出来事に触れ、エネルギー問題に対する関心を持つ方が増えていると感じています。そこで私たちが日本のエネルギー事情を踏まえて何をしているのか、どんな世界の実現を目指しているのかをお伝えしていくと理解もスムーズに進み、こうした問題と結びつけて「九電みらいエナジー」の名前を覚えてくださるのです。
九州電力より事業を移管。「再エネ主要5電源」のすべてを自社で保有する国内唯一の事業者として。
この『発電効率』をいかに上げていくかが大きなテーマとなるわけですが、少しイメージしやすいように具体例を挙げましょう。1990年に九州電力が鹿児島県に設置した「甑島風力発電所」は、日本で初めて実用化された陸上風力発電所で、最古参の現役風車として現在も発電を行っているのですが、その出力量は1基で250kWです。
一方、現在私たちが北九州・響灘で手掛けている洋上風力発電施設での出力量は1基で9,600kW。実に40倍近い出力量です。洋上は陸上よりも効率的に風を受けることができ、また、地理的な制約も受けないため大型かつ複数の風車を設置することができます。この風車を25基設置する予定なのですが、最大の総出力量は22万kW。北九州市の約4割に相当する17万世帯ぐらいの電力需要をまかなえることになります。
また、北九州の対岸、下関で稼働しているバイオマス発電所では7.5万kWを出力。下関の世帯数をゆうにカバーする量の電力を生み出しています。バイオマス発電は廃材や廃油などを燃料として再利用することができ、また、燃料さえあれば24時間安定稼働するため、こちらも非常に効率の良い発電方法です。
これらの再生可能エネルギーの開発事業は、九電グループにおいてもコア事業となりつつあります。そして、今後さらに取り組みを加速させるため、グループにおける事業の統合を進めています。
現在は九州電力が担っている地熱発電・水力発電事業を当社に統合する計画で、これにより再エネ主要5電源と言われる「太陽光・風力・バイオマス・水力・地熱」のすべてを自社で保有する国内唯一の事業者として、さらに強みを発揮しながら、日本の再生可能エネルギー開発、ひいてはカーボンニュートラルの実現を牽引していきたいと考えています。
ノウハウや強みを蓄積し、磨き続ける。
もちろん、人・モノ・カネ・情報といった経営資源も含めて統合することとなり、また法令遵守など企業として大きな社会的責任も伴うため、しっかりと下地をつくりながら着実に進めているところです。そのうえで、あらためて重要性を痛感しているのが「人材の力」です。
現在、当社の社員のうち6割強は九州電力からの出向者です。統合によってさらに人材の異動を見込んでいますが、一方で、プロパー社員との比率を50対50まで持っていきたいという大きな方針を持っています。
というのも、統合によって私たちはある意味で完全に「自立」していくことになるわけですが、そうすると、これまで以上に自分たちのノウハウや強みを社内に蓄積していくことが必要になります。
そのようななかで、九州電力からの出向者はどうしても帰任してしまうため、帰任とともに属人的なノウハウなどが失われ、戦力ダウンに繋がってしまう可能性があります。ですから、それを補うためのプロパー社員の採用・育成は当社にとって最重要テーマの一つと言えます。
人は宝。プロパー社員の成長に心が震える。
もちろん九州電力からの出向者も、在籍中はしっかりとコミットしてくれていますし、九州電力で培ってきたノウハウを当社で展開してくれることで、プロパー社員に与える好影響もたくさんあります。さらに、逆のケースもあります。ここ数年のキャリア採用によって迎え入れたプロパー社員が九州電力からの出向者に対しても好影響を与えており、私は何と言ってもそれが嬉しいのです。
「ここは自分たちの会社だ」「これは自分たちの仕事だ」という当事者意識を強く持ち、九州電力からの出向者を巻き込みながら奮闘しているプロパー社員の姿を見ると、「ここまできたんだな」と胸が熱くなります。
私は常々、「そういう組織をつくりたい。その結果、何があっても自分が責任を取るから」と口にしているのですが、まさにそれが形になりつつあることが嬉しく、“人は宝”であると、あらためて認識を強くしています。
最近も、ある大規模プロジェクトが壁にぶつかりました。戦争によって予定していたものが届かなかったり、急激な円安によって調達金額がどんどん上がっていったりと、当初の想定から環境が大きく変わったことによってプロジェクトに暗雲が立ち込めたのです。
そのような状況下で、私たちには3つの選択肢がありました。「歯を食いしばってこのまま続ける」「情勢を見極めて1年~2年スケジュールを伸ばす」「残念だが撤退する」という究極の選択です。
プロジェクトメンバーと話し合いを重ねると、私の心配をよそに、メンバーは誰一人として後ろ向きになっていませんでした。そして、意外なほど早く「このまま続けましょう」という結論に。その勇気とチャレンジに対してスポンサー各社も背中を押してくれることとなり、難しい局面を乗り切ることができました。
このときのメンバーたちの頼もしい姿は、今でも私の目に焼き付いています。そして、このメンバーというのが、まさにキャリア採用によってジョインしてくれた人たちだったのです。
やるもやらないも自分次第。でも、やることの価値はとてつもなく大きい。
当社は10周年を契機に、引き続き『SPEED&CHALLENGE』のモットーで次のステージに挑み続けますが、私たちの事業は規模が大きく、“日本で初めて”、“アジアで初めて”といった前人未到のチャレンジも少なくありません。ですから、成功に至るには多くの苦難があります。本当に山あり谷ありです。
でも、その分、醍醐味があります。価値があります。経験するだけでも大変なことで、さらに成し遂げるチャンスというのは、社会人の人生の中でそうそう出会えるものではないと思っています。プロジェクトの成功によって生まれる価値が、つまり自身の価値とも言えるのです。
当社での経験や努力が、メンバーのキャリアにとって大きな財産であり、社会的価値であると信じています。
思えば、私自身も40歳前頃に転機となるようなプロジェクトを経験させてもらったことがあります。今は逆の立場で、そういった経験をどんどんしてもらいたいのです。もちろん、やるもやらないも自分次第ですが、やることの価値、やった結果得られるものは、とてつもなく大きいはずです。
ですから、当社に興味を持ってくれた方には、面接の際にこんなこともよく言っています。「ここにはチャンスがある。それを掴むかどうかは、あなた次第だよ」「小さな会社の、大きな歯車になってみないか」と。