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技術力に遊び心もプラスして新たなフェーズへ成長していく。

キヤノンイメージングシステムズ株式会社
代表取締役社長 廣木 茂

新潟 更新日:2023年2月08日

1989年3月 筑波大学大学院修了。
1989年4月 キヤノン株式会社入社 製品に搭載する無線技術の開発に従事。
2021年3月 キヤノンイメージングシステムズ株式会社 代表取締役社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

キヤノン時代から付き合いがあった会社へ。

私は1989年にキヤノン株式会社に東京採用で入社し、2021年3月に新潟にあるキヤノンイメージングシステムズに出向する形で社長に就任しました。当社は数多くのキヤノン製品のソフトウェア開発に携わっている会社です。

私はキヤノンではエンジニアとして商品開発に携わってきたのですが、その関係で当社とは長く付き合いがありました。技術力があり、社員の皆が真面目で素晴らしい会社だと思っていたので、そこでマネジメントできるというのは本当に光栄で、嬉しい気持ちで赴任し、現在に至ります。

大学時代は物理学を専攻していて、原子核物理という稀な学問をやっていたのですが、仕事はソフトウェア系に進みたかったので、当時から技術が素晴らしいと思っていたキヤノンに入社しました。まだ通信関連はさほど盛んではない時代でしたが、今後は絶対に流行るだろうと思ってネットワーク開発の部署を希望。ちょうどキヤノンもソフトウェアを伸ばそうとしている時期でした。

最初に手掛けたのは、ビジネスフォンを開発する仕事。外線を社内で転送するもので、当時では珍しいコードレスフォンでした。製品を作りたかったので仕事自体は幸せでしたが、なかなか売れず、私が入ってから2、3年目で製造が終わることになりました。

その後は無線技術の研究開発を担当しました。主にプロトタイプを作っていて、なかなか製品は世に出なかったのですが、風向きが変わったのが2006年頃。カメラも無線で通信できるようにしようという動きになり、キヤノンのデジタルカメラに無線を搭載する仕事を手掛けました。そこから、プリンター、複写機、プロジェクターなど、ほぼ全てのキヤノン製品の無線化を私の部署で担当しました。

ソフトウェア会社にとっては“人材”が資本。

ずっと技術屋ではあったのですが、人材育成にも興味があり、社内の階層別研修の講師を担当したり、コーチングを学んだりしていました。なぜそこに興味が向いたかというと、ソフトウェアというのは工場を持つ生産系の会社と違い、やはり人が資本だからです。人をいかに育て、スキルアップさせるかが、会社の成長に直結します。

また、私自身もエンジニアだったので分かるのですが、いかに技術を持っていても、環境が合わなかったり、スキルアップの方法が間違っていたりすると能力を発揮できないんですね。実際にキヤノン時代、社内でくすぶっていた社員がいたのですが、面談での話や行動を見て、その人の持ち味を発揮させるような配置転換をしたらぐっと伸びて、活躍する人材に成長したということもありました。上司の役割というのは本当に大切だと思いますし、かける言葉のひとつひとつが重要だと感じています。

人を育てるということの意味を最初に教わったのは、キヤノンに入社した頃の先輩たちからですね。キヤノングループの行動指針に「三自の精神」というものがあり、何事も自発的な行動を大切にしています。仕事についても、ある意味伝統的に先輩からは教えてくれなくて、でも、こちらから聞きに行くと丁寧に教えてくれるんです。自分から動かないとダメなんだなということを学びました。

特に私は生意気だったので、何かと主張することが多かったのですが、そんな新人を許容してくれる先輩がたくさんいる職場だったので、恵まれていたなと思いますね。「あいつはまだ技術力も無いくせに生意気だけど、まあ大目に見てやろう」みたいな懐の深さがあって、ありがたかったです。先輩や上司がそうやって見守ってくれたことは、いま私が人を育てるということの基礎になっています。

仕事にも遊び心があっていい。楽しむ気持ちを伝えたい。

最初にお話しした通り、今の会社とは昔から付き合いがあって、任せた仕事はきちんと仕上げてくれるし、正直さがあって、伸びる会社だなと思っていました。ただ、真面目過ぎるところもあって、もう少し遊び心があってもいいかな、と感じるくらいです。逆に、そういうポジティブな感性を身に付けたら、すごく成長すると思っています。

私は何事もポジティブに捉えて楽しもうと意識しているのですが、高校生のころまでは明るい性格でもなかった自分が、大学に入って前向きに行動することで小さな成功を積み重ねて、これはもっと明るく生きたほうがいいな、と考えるようになったんですね。仕事に限らず、辛いことやネガティブになることはたくさんありますが、捉え方によっては、変わるチャンスになると思うんです。

先程お話しした無線の開発をしていた時期も、メインストリームで仕事をしたのはほんの短い期間で、裏でずっとやっていた時間の方が長いと思います。「これは期待されていないな」と感じていたので、それなら自分を磨こうと思って社内の講師などに積極的に手を挙げました。

メインストリームじゃないときこそ勉強するチャンスで、私の場合はその時に学んだコーチングなどが今、役に立っていると感じます。だからこそ社員の皆にも、ポジティブに楽しむ気持ちで仕事に向かってもらいたいと思っています。

ソフトウェア会社も「価値」を売るステージへ。

ソフトウェア会社の仕事というのは、人×単価の世界です。例えば300人の技術者がいたら、300人×単価の売り上げで、それ以上になることは無いんですね。この会社が伸びると思ったのは、それを愚直に続けてきて、毎年ちゃんと利益を出してきているからです。

そこから次のステージに行くためには、今後は人×単価の商売だけでなく、作ったものを売ることによって価値を認めてもらうことが必要になります。いまは売り上げを伸ばそうとしたら時間外も仕事をすることになり、研究開発や自分で勉強をするという将来への投資の時間がありません。価値で稼いで、そうした時間を確保していく方向に転換して、人が育つための余裕を作っていこうとしているところです。

活用できるのはAIや画像認識などの技術ですね。キヤノンの子会社なので、カメラを活用するのは得意で、その画像を診断して何かをする、ということで新潟に貢献していけたらと思います。

工場に監視用カメラを入れて、異常があったらフィードバックするとか、機械が壊れそうなタイミングを察知して自動的にサービスに報告するなど、そういう価値にならお金を払ってもいい、とお客様に思っていただけるものが生み出せると思います。バーチャルのビジュアルやスポーツで活用されている自由視点映像システムなど、キヤノンの先端技術を使ったサービスも作っていけたら面白いですね。

当社がグループ内で求められているのは、短期間で質が良いソフトウェアを開発する会社であること。実はそこで、当社はかなり鍛えられています。キヤノンはカメラというハードウエアから始まった会社ということもあり、とにかく品質に厳しいです。やはりメーカーとしてカメラの品質が最高峰の域まで来ているので、後から加わった事業であるソフトウェアも、流れに追いついていなければダメだという価値観があります。

ソフトウェアというのは、不具合が出たり、ユーザーのニーズに合わせてアップデートで対応したりできる訳ですが、キヤノンの場合は製品出荷時にすべてが完璧でありたい、というスタンスです。そういう品質を求められる環境でやってきたので、逆にキヤノン以外のお客様との仕事での評価はとても高い。これも当社の大きな価値だと思います。

社員の健康が第一。社員の健康が経営でもある。

社長としては、社員の健康についてはすごく気を付けたいと思っています。社員がメンタル面や健康を害するという話は非常に心が痛むので、本社の健康支援室と連携して、健康セミナーを開催したりしています。先日は睡眠に関するセミナーをやってもらったところ、かなり好評でした。

がん検診についても、もともと受診率は高かったのですが、さらに高めたいと思って、近くのクリニックの先生にお昼休みに来てもらって予約会を開いています。がん検診は最初の1回目を受けるハードルが高いというので、そこで予約を入れてしまえば、あとは検診に行くだけです。それをやったことで、グループ内ではトップの受診率になりました。

繰り返しになりますが、当社は人材が財産で、社員の健康イコール経営でもあるんです。社員の皆が体も心も健やかに仕事に向かってもらえる環境づくりが、本当に大切だと考えています。

この素敵な会社をもっと新潟の人に知ってもらいたい。

採用においては、やはり技術系の会社なので、まずはしっかりした技術力があるか、仕事への取り組み方はどうか、といった点を見ます。それをベースラインとした上で、前向きな気持ちで会社に来てもらえるかどうかを重視します。新しい会社でこういうふうに仕事をしたいとか、自分の技術力を活かしたいといった気持ちを聞きたいと思っています。

新卒者を採用するときも、大学での研究などは商売に結び付かないものもやっているでしょうけれど、そこで自分がどう自発的に動いたかは、話を聞けば分かります。結果として研究や取り組みが成功したか、失敗したかは関係なくて、自らどう動いたかが大切ですし、そこを評価したいと思います。

私としては、入社希望者を増やすためにも、この会社の存在をもっと新潟の人たちに知ってもらいたい。まだアピールが足りていなくて、知られていないんですね。この会社で働くことのメリットのひとつは、キヤノン製品に携われるということ。私も入社する動機に、それがありました。お店に行って、カメラ売り場で「これは俺が作ったんだよ」と言えたらいいなと。製品に携わる仕事は、お客様が喜んでくれている姿が分かるというのが魅力だと思います。

当社では「ありがとうが聞こえるソフトウェアをめざして」というスローガンを掲げています。ソフトウェア会社というのは外から見えにくい存在で、直接ありがとうと言われる様子はイメージしにくいかもしれませんが、キヤノン製品を使ったお客様が喜ぶ姿が、ありがとうというメッセージそのものだと捉えています。

そういった温かみを感じられるソフトウェア会社として歩んでいこうと、みんなで考えている。とても素敵だなと私も感じますし、だからこそ多くの人に知ってもらいたいと思っています。

編集後記

コンサルタント
中村 麻優

講演が本業かと思うくらいに、とても分かりやすく、聞いていて楽しい、心地よい話し方をされる廣木社長。ご自身もエンジニア出身だからこそエンジニアの気持ちが分かり、それが社員の心身の健康への取組みや「ありがとうが聞こえるソフトウェアをめざして」というスローガンの掲示にも繋がっているのだと感じました。

世界に誇れる製品の根幹を支えている素敵な企業が新潟にあるんだ、ということをもっとたくさんの人に知ってもらえるようご支援したいと強く感じる取材となりました。

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