重力を自在に操る技術の進化で、社会課題を解決し世界No.1を実現。
株式会社タダノ
代表取締役社長・CEO 氏家 俊明
1961年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、1984年に丸紅(株)入社。建設機械部長・経営企画部長・常務執行役員・輸送機グループCEO等を歴任。2019年、(株)タダノに取締役執行役員専務として入社。2020年、代表取締役副社長に就任。企画管理、グローバル事業推進、CS、国内・海外営業、米州事業・営業統括等を担当。2021年、代表取締役社長・CEOに就任。
独自技術に他社のノウハウをアドオンし、進化スピードを加速
タダノは1955年に日本初の油圧式トラッククレーンを開発して以来、ほぼ自力で技術開発を行ってきたクレーンメーカーです。完全な独自路線でありながら、世界に伍すクレーンを香川で造り続けており、技術レベルは高い水準にあります。しかし今や、タダノに限らずどのメーカーでも、自社開発力だけで世界のニーズに対応するのは容易ではありません。情勢変化が早過ぎ、技術開発が追いつかないのです。そんな中、高水準にあるタダノの技術に他社技術をアドオンすれば、進化スピードが格段に上がるでしょう。
タダノは「LE(Lifting Equipment)世界No.1を目指す。」という長期目標を掲げて事業を展開しています。Lifting Equipmentとは吊り上げる・引き上げる・持ち上げる機械のことで、クレーンや高所作業車が代表例と言えます。こうした分野でタダノは、独自技術を磨いてきました。その技術は堂々と世界と闘っていけるだけの厚さと深みがあります。これにDemag社買収によって、技術の広がりが加わりました。タダノには、世界一を狙えるポテンシャルがある。そう確信したからこそ、私は入社を決めたのです。
建設工事の大型化が進む中、“課題を解決する技術”が求められる
また、風力発電なども大型になっており、100mのポールを立て80~150トンの発電機を搭載するケースも珍しくありません。こうした工事にも、吊り能力の高いクレーンが求められます。世界的なカーボンニュートラルの流れを受け、欧米では大型風力発電がかなり伸びています。陸上でも洋上でも適地が少ない日本は風力発電に積極的ではありませんでしたが、別の見方をすると、日本の状況を考慮した大型風力発電建設のソリューションがないから、と言えるかもしれません。風力発電はグリーンエネルギーの主要な担い手であると分かっていても、建設技術が揃わなければ、手の打ちようもありません。
こうした状況に対応するため、スピード感のある技術進化が必要なのです。吊り能力がアップすれば、対応できる建設工事が広がります。新たな能力を持つクレーンの誕生により、不可能だった工事が可能になる。大型風力発電の日本での建設や、都市部インフラ工事の迅速化にも貢献できるかもしれません。技術がないからと手をこまねいている状況は、世界各地にあります。タダノが技術を提供することで、国内外の課題を前進させる。クレーンによって社会の課題を解決する、というリフティングソリューション(LS)を提供していきたいと考えています。LSによって世界の課題を解決することが、LE世界No.1の実現につながるでしょう。
新機種、電動化、DX、安全性向上にもスピード感をもって取り組む
モバイルクレーンの電動化・脱炭素化にも取り組みます。現在は高松にある技術研究所が主力になって研究を進めていますが、買収を契機に、ドイツにも研究所を作る計画が進んでいます。そもそも電動化・脱炭素化は、ドイツが遥かに先を行く分野ですから。Demag社の周囲には、これらに詳しい研究者や学者が大勢いるし、サプライヤーも揃っています。そういった環境の中で日独の技術を融合させる方が、開発スピードは上がるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)にも注力します。タダノはクレーンメーカーとして他社より先行して、GPS・携帯端末でクレーン稼働状況をリアルタイムで把握するシステム「HELLO-NET」を導入するなど、IT活用には、以前から積極的でした。他の面でも、DXの動きを強めていきます。一般の乗用車では、センサやカメラ、通信システムを駆使して運転中のドライバーをサポートしています。こうした安全システムは、クレーンにこそ求められるものです。巨大な移動体を一人で動かすのだから、死角も増えます。カメラやセンサの数を増やせば安全性は向上するでしょうが、デバイスを増やすほどコスト高になってしまいます。必要最低限のデバイスで効果を最大化するには、ディープラーニングなどIT活用が欠かせません。また、生産ラインの進捗をデジタル技術でコントロールし、さらなる効率化を図る必要もあります。あらゆる面でDXを浸透させていきます。
日米欧が融合した“グローバルONE TADANO”で
しかし、簡単ではありません。タダノは独自技術を持つ会社ですが、Faun社にも150年の、Demag社にも190年の歴史があります。技術者たちの自負を尊重しつつ、手法の差異をなくして一体化するのは大変です。クレーンは量産品とは言え、マーケットインで生まれる製品です。各地のユーザーの声に耳を傾け、そのニーズに応える技術者がいなければ、市場に受け入れられる製品が造れないという点では、むしろ一品モノに近いと言えるでしょう。だからこそ、技術者たちは製品にプライドを持っているのです。日本集権型のガバナンスで彼らのプライドを損なっては、強みが発揮できません。虎を猫のように飼いならすのではなく、虎は虎のままで活かす。そういうガバナンスが求められます。そのため私もスピード感を持ち、グローバルマインドを大切にして取り組んでいきたいと思います。
変化を加速させるには、経験や知見を持った中途人材が不可欠
当社では既に、多くのキャリア人材が入社し、それぞれの専門性を発揮する人、グローバルに事業をリードする人と様々です。自社で磨いた技術にDemagなど他社技術が加わったことで技術進化のスピードが上がったように、人材についても他社で培った経験や知識を有するキャリア人材が更に活躍してくれることで、タダノグループ全体の変革を、よりスピーディーに、よりダイナミックに進められると考えています。高い志と先進の技術を原動力に、世界No.1を達成したいですね。