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大学の知の財産を社会のイノベーションにつなげる。

東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社
代表取締役社長 吉村 洋

宮城 更新日:2021年4月14日

1946年生まれ。京都大学理学修士。1970年ソニー(株)に入社、1978年より技術総括として米国アラバマ州の工場立ち上げに従事。MDビジネス、データファイリングメディアビジネスを立ち上げ、本社データメディア事業部長、記録メディア開発部門長、仙台テクノロジーセンター代表を歴任。2003年、仙台市産業振興事業団プロジェクトマネージャー、2016年、東北大学ベンチャーパートナーズ(株)社外取締役、2018年、同代表取締役社長就任、現在に至る。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

人生の財産となったアメリカ赴任の5年間。

大学を卒業してソニー(株)に入社し、32歳から約5年間アメリカで磁気テープ事業に携わっていました。大学から磁気の研究をしていたこともあり、入社後は磁気テープの開発、商品化、量産化立ち上げを担っていました。会社では磁気記録分野のオーソリティになりつつあり、自分の開発したものが世界標準となる動きがあることに、高揚感があったのを覚えています。ソニーのアメリカ進出には、「コストのためではなく、多くの消費者に一番近いところで消費者の声を聞いて、商品開発に役立てたい」というポリシーがありました。

34歳でアメリカ工場の技術責任者になり、そこで文化や思想の違いに愕然としたこともありました。今でこそ世界的に多様性が叫ばれていますが、その当時からソニーの工場は男女や人種の平等を実践していて、24時間体制の工場で女性が活き活きと仕事をする現場を目の当たりにし、『これからは日本企業も多様性を重んじなければならない』と肌身で感じたものです。

商品開発の経験から、投資の目利き術を養った。

磁気テープがインプルーブメント(改善)期に入り、長期保存とアクセスに優れた記録媒体である光ディスクの商品開発から量産に向けた事業化までを一気通貫で担当することになりました。10年、20年後を見据えた商品の開発製造を任されたということです。まったく新しい価値観の商品を世の中に送り出すという試練の中で、あまりにも多くのことを勉強させてもらいました。この経験が、今の仕事でも非常に役立っていると実感しています。

そして58歳で仙台市産業振興事業団に入社し、フィンランド共和国と提携しつつ地元中小企業の業務や商品開発をサポートすることになりました。同時進行で東北大学とも産学連携の仕事もサポートしておりました。東北大学ベンチャーパートナーズ発足後は投資案件の審議を行う支援・投資委員会のメンバーにもなりました。理系の大学で学び、ソニーで商品開発・事業開発に携わっていたので、投資の問題点などの目利き役には適任だったのかもしれません。そのような経緯があり、現職に至っています。

大学への投資事業を通して社会のイノベーションにつなげる。

大学には、まだ知られていない知の財産がたくさん眠っています。その知の財産を活用し、事業化して、社会のイノベーションにつなげていく取り組みは、社会にとって有益なこと。しかしながら民間のベンチャーキャピタル(VC)が、大学のシーズ(技術のタネ)に投資するにはリスクが高すぎます。そんな中、産業競争力強化法という法律ができたことにより、4つの国立大学法人(東北、東京、京都、大阪)で投資事業が認められました。新しい事業を立ち上げ、その事業を育てるための投資という位置づけです。投資後、ある程度事業の見通しがついてきたら民間企業にバトンを引き継ぐという中間的な投資会社の一面があります。

我々は東北大学の知の成果への支援を通して、震災後の東北の地域活性につなげたいと願っています。大学の先生と学生が苦労して築いてきた知の財産を世の中に役立て、社会との共生、共創することを我々のミッションとしています。

東北との地域連携を深め、日本全体の事業活性化までをサポート。

当社は、東北大学の100%子会社として設立されました。東北大学の「研究第一主義」「門戸開放」「実学尊重」の伝統、理念、精神は、当然ながら当社のスピリットとも合致しています。すでに1号ファンド、2号ファンドが設立され、投資を実行しています。

2号ファンドは、北日本の国立大学へと投資対象を広げ、より多くの知の財産の活用に貢献しています。我々のスタッフに加え、東経連ビジネスセンター様や地域の経済振興団体様と連携し、地域経済の活性化のため、イノベーション・エコシステムの実践に取り組んでいます。東北経済連合会が掲げる新ビジョン2030「わきたつ東北」という大きな流れの一角で、少しでも貢献したいと考えていますが、さらに今後は日本全体にまで視野を広げ、イノベーションを進化させることで事業活性化のサポートに取り組んでいきます。

オープンイノベーションへ進化させ、新ファンドを継続。

投資支援によって新しい事業を生み出し、地域を活性化することが、我々のミッションであり、夢でもあります。これまで投資してきた案件は、成果が出始めていて、例えば、難病治療の創薬研究の投資先企業は2020年12月末に上場しています。

今後のキーワードになるのは、今回の創薬研究にも見られるオープンイノベーションです。外部からの人や技術を取り入れる動きに目を向け、イノベーションを促進し、進化させていくことが重要になります。さらに今後の技術革新を見据えるとIT分野、特にAIに注目し、新たな事業創出に役立てていくことも課題になります。

事業の広がりや掘り起こし、さらなる可能性に向けた継続的な投資は必須案件です。今後も新ファンドの組成により事業を創出し、東北大学の強みである金属材料やデバイス分野研究においても、大学側と一緒に汗をかいて取り組んでいきます。

「夢の実現のために頑張ろう!」と意欲に燃えている人材。

経営者マインドを有していることが、求める人材要件の一つです。我々の仕事は、大学の先生の研究や思いを事業化して、ビジネスを成功させていくというミッションがあるからです。また、自分が携わってきた様々な分野のスキルを活かして、自身が叶えられなかった夢の実現のために『もう一度頑張ろう』と意欲に燃えている人にも期待しています。

夢に向かってワクワクしながら力を発揮していきましょう。自分が今までやってきたことの棚卸しをして、自分のどこにプロフェッショナリティがあるかを見極め、どんな分野で貢献できるかを考えてください。ロマンがあって夢を追い続けることは大事なことです。夢を共有させてください。そして新しいことに挑戦しませんか。

編集後記

コンサルタント
高岡 幸生

吉村社長はソニーの成長期に磁気テープや光ディスクを専門とし、きらびやかな商品開発から地道な量産化まで、メーカーの酸いも甘いも知り尽くしたバリバリのエンジニアです。

また、海外展開する企業がまだ少ない1970年代に米国駐在を経験され、早くから多様性を知った国際派でもあります。言わば、「伸びる会社」も「世界」も知り尽くした方です。

ゆえに同社のミッションである「ニッポンの国際競争力の向上」「産業振興」に加えて、東北大学で日夜研究に勤しむ先生や研究生への思い、そして、3.11を経た東北復興への思いを語る言葉には迫力を感じました。

まさに世のため人のために仕事をしておられ、大変な熱意が伝わってきました。

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