新潟から世界へ、日本のリユース文化を広めていく。
株式会社ハードオフコーポレーション
代表取締役社長 山本 太郎
1980年新潟県生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、ファーストリテイリングを経て2007年にハードオフコーポレーション。常務などを経て2016年4月から副社長。2019年4月に社長就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
商売に対する姿勢は、ユニクロもハードオフも同じだった。
ハードオフコーポレーションは新潟県新発田市で設立し、ハードオフを中心に、オフハウス、ホビーオフなどのリユース事業を手掛けています。直営店・フランチャイズ店合わせて日本全国に約900店舗(2021年時点)を展開し、2016年からはアメリカ、台湾などにも進出しています。
会社の前身は、現会長の父が経営していたオーディオショップ「サウンド北越」。だから子どもの頃は「自分は将来、電器屋を継ぐんだ」と思っていました。私が10歳のころ、バブル崩壊があって売上が厳しくなり、ハードオフという業態に転換しました。
私自身、学生時代は大学までずっとテニスに夢中で、親の仕事なんて全く関心がなくて、上場したと聞いても他人事でしたね。父からは一度も、「お前に継がせる」という話もありませんでしたし。それでも「いつかは継ぐんだろうな」という気持ちがあったので、就活の時は小売業で、チェーン店で、いま一番のところで働きたいと考え、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社しました。
5年ぐらい働くつもりでしたが、父が体調を崩したこともあって、2年半で新潟に戻ることになりました。ユニクロでの仕事はすごく楽しかったし、もっとやりたい気持ちもありましたね。それもあって、新潟に戻って最初の頃は「やっぱりユニクロはすごかった」と感じることばかりで、「ユニクロみたいな会社にしたい」と考えたりしていました。
でも、入社して次第に、「ユニクロにはユニクロの良さがあるけれど、ハードオフにはハードオフの良さがある」ということ、そして「商売の原理原則は変わらない」、ということに気付きました。
当社は掃除や挨拶にものすごくこだわりを持っているんですが、ユニクロも同じ。それを知って「やっぱり商売ってそういうものだよな」と思ったんです。一発逆転満塁ホームランなんてものはなくて、コツコツやることが大事。その姿勢は共通していると感じました。
ハードオフの経営理念はすべての原点。
当社が常に大切にしているのは経営理念です。ユニクロもそうでしたが、戻ってきてうちの理念を知ったとき、これはすごいと感嘆しました。
「1.社会のためになるか 2.お客様のためになるか 3.社員、スタッフのためになるか 4.会社のためになるか」。これら4つの条件を、1から4の優先順位ですべてを満たす、というものなのですが、これはサウンド北越がつぶれそうになったとき、父が死にものぐるいで考え抜いたものだという話を聞いて、腹に落ちたんですね。新規プロジェクトをやるときにも、この経営理念に当てはめて考えると正しい方向に進みます。
フランチャイズ加盟店は全国に36社あるんですが、オーナーの皆さんはハードオフが儲かるビジネスモデルだからというより、この理念に共感したから加盟したと話すんです。
うちのフランチャイズグループは「世界一のフランチャイズグループを作ろう」という話をしているくらい、本当に良い信頼関係が築かれているんですが、それは根底にこの「理念」があるから。それが無いと損得の関係だけになって、大きな壁があったら乗り越えられない。想いがひとつになっているので、壁があってもみんなで頑張ろう、と力を合わせることができています。
フランチャイズを募集するときも、理念に共感していただけないところとは、どんな優良企業でも握手はしません。たとえ財務体質が厳しくても、リセットしてこの理念に共感してやっていきたい、という経営者とだけ一緒になってきている。それは社員の採用でも同じですね。
社員はみんな、この仕事が好きだし、楽しんでいる。
人材採用で私は最終面接を担当していますが、そこでも、まず経営理念をしっかり話しています。当社は全国に社員、アルバイト含めて約1万人の従業員がいて、朝礼では毎朝、全員が理念を唱和しています。その理念を理解していない人が入社してくるのは嫌ですね
企業文化についても同様です。当社は挨拶やトイレ掃除にすごくこだわりがあって、「店長になってもトイレ掃除はするし、ゴミが落ちていれば拾うし、私も社長ですが店の敷地に草が生えていたら抜くよ」という話をすると、価値観が合わない人は自分からフェードアウトしていきます。そこが合わないと、どちらも辛いですよね。
あとは、単純に「週末やゴールデンウィークは忙しくて休めないよ」という話をします。本当の意味で、私たちと合う人を探していくという感じですね。社員はみんなこの仕事が好きだと思います。リユースで、エコで、サスティナブルで、社会のためになっているという実感がすごくあって、お客様から本当に喜んでいただける仕事なので。
ハードオフはチェーン店ですが、実は店ごとの個性をすごく大事にしています。ある店長は買取単価を上げるためにジャンクっぽいものは縮小する、ある店長は逆に何でも買うなど、店によって品揃えが全然違ってくるんです。
それがあることで、1日に5店舗回るような「ハードオフ巡り」をしてくださるお客様や、なかには全国制覇してくれるお客様もいるんです。そういう会社なので、社員はいろいろな個性の人がいる方がいいなと思っています。
冒険心ある後輩の存在が、海外進出の道を拓いた。
経営にインパクトを与えてくれた採用としては、いまアメリカの子会社の社長をしている山崎の存在があります。大学時代のテニスサークルの後輩なんですが、学生時代から仲がよくて、私が卒業するときには「アメリカのIMGアカデミーに道場やぶりに行くぞ」と誘って、山崎と一緒に卒業旅行に行ったんです。
全米トップのジュニアと一緒に1週間テニスをするという、今考えるとよく行ったなと思うんですが。学生なのでお金が無いなりに工夫して、すごくいい旅でしたね。
その後、彼から就活の相談をされたときに、うちの会社に誘いました。新潟の店長やエリアマネージャーなどを務めてくれていましたが、2014年くらいに海外進出の話が出て、それを任せる人材は誰かいないか、と思ったときに浮かんだのが山崎でした。
私がハワイから電話をして、「お前にやってほしい」と話したら、二つ返事で「はい」と言ってくれて、ハワイ店の立ち上げをして、いまはロスで立ち上げをしています。
私と一緒にIMGに武者修行に行くくらいなので、冒険心にあふれている人物。彼がいなかったらアメリカの事業が今のように立ち上がっていただろうか、と思います。
彼とは兄弟のように接していて、私の考えも分かっているし、ふたりで食事に行ってもハードオフの理念の話になる。いまアメリカはコロナ禍で大変ななかで、本当に使命感を持ってやってくれています。
国内2000店舗と海外進出を意欲ある人たちと一緒に叶えたい。
これからも、成長意欲の高い人と一緒に仕事をしていきたいですね。うちの業界はネット系リユースが伸びてきたことで、ともするとリアル店舗は古いんじゃないかという見方をされるんですが、私はまったく違う考えで、いま国内に900ある店舗は2,000店まで増やせると思っています。そう考えると、まだ道半ばなんですね。
さらに、海外にどんどんチャレンジしていきたいので、挑戦意欲があって、自分自身を成長させたいという向上心がある人が集まってくれたら、それらを実現できると思っています。
ユニクロは成長意欲がある人の塊で、みんな競争心があって、本当に凄い集団。私がいた頃は、まだ海外にはそれほど出ていなかったけれど、これだけの人たちがいたらこの先はどうなるんだろうと思っていましたが、今やすごいですよね。ああいう人たちがいたら、ここまでやれるんだな、と。
私たちとしても、意欲ある人を採用して力を蓄積していけば、いろいろなことに挑戦したとき、成功をつかめるはずです。
日本はリユースの超先進国。アメリカや台湾、中国を見ても、皆なんでもすぐに捨ててしまいますが、日本にはリユースの概念があるので、買ったものは大切に使うということができる。それを世界に伝えていけば、人々の感覚や文化も変わっていくと思うんです。
実際、出店しているアメリカや台湾では「これが本当に中古品なのか?」とすごく驚いて、喜んでくれる。そういう意味では、私たちが海外に行って、健全なリユースショップを作っていって、リユース文化やものを大事に使う文化を作っていかなければいけないと思っています。
実際、台湾の社長もハワイの社長も、それぞれリユース文化を広めることに使命感を持っているし、反応もいいんです。本当にやりたいことがたくさんあるので、共感してくれる仲間たちと一緒に成長していきたいですね。