「おいしい」を演出する技術で、食の世界を拡げる。
仙波糖化工業株式会社
取締役管理本部長 市川 剛久
栃木県真岡市出身。大学卒業後、1993年に仙波糖化工業株式会社に入社。生産部を経て、1994年に人事部に異動。2016年総務部長、2018年執行役員、2019年取締役、現在は取締役管理本部長。
※所属・役職等は取材時点のものです。
加工食品の素材メーカーとして、食のバリュエーションを提供。
仙波糖化工業という社名をご存じの方はほとんどいないでしょう。消費者が手に取る食べ物のパッケージに仙波糖化工業の名前が表示されることはほぼありません。当社は「加工食品の素材メーカー」という立ち位置で、チャネルの多くはBtoB、つまり皆さんが知っている食品メーカーが当社にとって「お客様」ということになります。
加工食品の素材とは「味付け」「色付け」「風味付け」を担う重要要素です。人が食べ物を口にすると無意識に「おいしい」「甘い」「すっぱい」など感じますが、それを創り出しているのが当社の技術です。イメージしやすいところでは、インスタントラーメンの粉末スープでしょうか。粉末醤油、鰹節エキスで味付け・風味付けを、カラメル色素で色付けをしています。さらには野菜などの具材もフリーズドライ技術を用いて提供しています。
創業商材である「カラメル」は国内シェアトップ。
創業は昭和21年でカラメル製品からスタートしました。諸先輩方からは、世界トップクラスの清涼飲料メーカーのカラメル色素を日本で初めて手掛けたことが、いまの仙波糖化工業のベースになっていると伝え聞いています。いまでこそカラメル以外も多く取扱っていますが、それも思いつきでやってきたのではなく、お客様からの要望に応える過程で事業を伸ばしてきました。
例えば、カラメルは水あめのようにドロドロした液体で、当時はそれを一斗缶に詰めて販売していたのですが、それが冬になると固まってなかなか出てこない。お客様から「これ何とかならないか」と相談があり、それを解決するために考えた製品が粉末カラメルです。
そうすると次は、カラメルを粉末にできるなら、醤油でも味噌でも粉末化できるだろうと依頼があり、インスタントラーメンを手掛けるメーカーとの取引が始まりました。当時は袋麺が主流でしたが、徐々にカップ麺が増えてくると、スープだけでなく具材も必要になります。そこで固形の具材を乾燥させるためにフリーズドライ技術を手掛けていったという具合です。
いつもお客様からの要望に応えるために技術を広げてきたというのが仙波糖化工業の歴史です。
「粉末化技術だけでなく、原料そのものに付加価値を」
このように技術は広げていったのですが、他社には真似できないものをと考え、原料そのものからつくり込むことに力を入れてきました。例えば緑茶を粉末にすることはできても、緑茶を外から買ってきていては差別化ができなくなってきます。そこでお茶の葉からどうすれば旨味成分を抽出できるかを極限まで追求することで、付加価値の高い製品を生み出していきました。
この「抽出」技術はお茶の葉だけでなく、魚、豚、鳥のエキスなど多くのものに応用することで、仙波糖化工業の強みの一つになっています。
もう一つの大きな強みが、味を「組み立てる」技術です。お客様からは「もうちょっとパンチの効いた味にしてほしい」など抽象的なオーダーを受けることも多く、仙波糖化工業はその味を科学的に創り出す技術が競合優位性に繋がっています。
アジア圏への展開で、直近5年間で売上30%アップを達成。
この数年はアジア市場の開拓が当社の重要テーマの一つです。平成15年には中国に現地法人を立ち上げていますが、あくまで日本向けの製品を作る生産拠点という位置づけで、つい3年前までは海外売上高は1億円にも満たない水準でした。そこから中国をマーケットとして再定義して営業拠点を作るとともに、アジア圏をカバーするためにベトナムにも現地法人を作っています。
2020年3月期では海外売上高は27億円まで増やすことができました。この海外事業がグループ全体の業績をけん引し、直近5年間で連結売上高は30%アップし200億円を超えています。
「仙波糖化工業のここがおかしいよ」と言ってほしい。
栃木の会社ではありますが、採用に関しては地元だけでなく、さまざまな食文化を知った人材を採用することを重視しています。これまでの歴史もありますが、会社方針として「これまでにこだわらずにチャレンジしていくぞ」と号令をかけていますので、特に中途採用する社員からは「仙波糖化工業のここがおかしいよ」と言ってほしいですね。
いま海外事業が軌道に乗りかけているのも、現地の食文化を知って相手の懐に入り込める社員が採用できたからだと思っています。当社にとって採用は、井の中の蛙にならずに、常に外を見てビジネスをしていくために必要不可欠なものとなっています。