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「技術革新で“未踏峰”に登る」その目標に社員皆で向かう日々。

株式会社WELCON
代表取締役 鈴木 裕

新潟 更新日:2018年6月20日

東京の大学を卒業後、新潟県のブラウン管製造装置メーカーへ就職。拡散接合技術を研究し、2006年に志を同じくする技術開発部隊とスピンアウトし、株式会社WELCONを設立。新潟から世界へ技術を打ち出していくべく、様々なシチュエーションでその技術力を発信中。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

始まりはバイト先の社員たちの雇用継続のための事業提案。

WELCONは「拡散接合」という真空の環境下で金属に熱と圧力をかけることで、金属同士を溶かすことなく原子レベルで接合する技術をもとに2006年に創業しました。きっかけは、私が5年くらいの予定で新潟にボランティア活動に来ていたとき、ブラウン管の製造装置の設計を手掛ける会社にアルバイトで雇ってもらったことでした。

当時、ブラウン管の需要が無くなっていく頃で、このままだと社員の皆さんの仕事が無くなってしまう、と気になっていました。会社に「何かお考えがあるんですか」と尋ねたら、逆に「何かないか」と聞かれて、思い浮かんだアイデアのひとつが「拡散接合」でした。

拡散接合は大学生の時に就職活動で訪問した大手企業の研究所で知り、面白い技術だと思って記憶に残っていたものです。その装置を作って販売して、メンテナンス事業をしていけば、このくらいの人数なら養えるんじゃないかと思いました。

経営者に話したら、「金はないので助成金でやってください」と言われて、「じゃあやります」と。私も世間知らずのところがあったんだと思います。アドバイスをいただける専門家にも出会え、何度も失敗しながら装置を作り上げて、受注先も現れ、意外にも事業は順調に滑り出しました。

その後、自動車の衝突防止用レーダーの部品を手掛けることになり、ベンチャーキャピタルからの投資を受けることになったタイミングで独立。その時にはブラウン管の仕事は全く無くなっていて、私と一緒に移ったメンバーと計7人でスタートしたのがこの会社です。

地元で自分を試せるような、世界で戦う場所を新潟に創る。

志を持って起業したというよりは、「周りの人たちが生活できるようにしなくちゃいけないんじゃないか」というところがスタートでしたが、事業を始めるからには経営理念も考えました。

「技術革新により、社会の発展に貢献する」「創造することを楽しみ、変革と差別化を追求する」「顧客、取引先、仕入先、従業員すべてが喜ぶ」「地域に希望を与え、活性化に寄与する」の4つです。

そして、会社を作ったときに決めたひとつの目標が「世界で戦う場を創る」ということ。新潟県は大企業の工場を誘致して、そこに雇用を創出しようという方針で進んできましたが、優秀な人がそこに勤めたとしても、開発的な仕事は担当できないんですね。

開発をしたければ転勤だと言われたら、地元にいたい人は「それはできません」となってしまいます。あるいは開発をしたい人は地元から離れてしまうことになる。

いまは交通網が発達して、インターネットもあるので、地方からでも十分に発信ができます。そういうことができる場が作れたら、地元から離れなくても「ここで自分を試してみよう」という人が増えて、地域も活性化する可能性が出てくると思うんです。

当社がそういう選択肢の1本になれたらいい。経営理念の4つ目の地域に寄与するというのは、そういった思いが込められています。

仕事ができる人間にするのは雇う側の責任でもある。

創業から10年間はつぶれない会社を目指して、仕事は誠実にやる、受けたものは最善を尽くす、というスタンスでやってきました。10年目で売上が5億円を超えたあたりで、アーリーステージを抜けつつあるかなと感じていて、次の10年はビジョナリーな会社になろう、やりたいことをやる会社になっていこうとしています。

ビジョンを明確にするため、社員と一緒に「ビジョンとは何か」というところから考え始めました。ビジョンとは目標と、いつまでにそうなるかという時間軸を明確にしなければいけません。しかし、それは決して積み上げだけでは実現しない世界で、現状から1年頑張った姿と、こうなりたいという姿は絶対に乖離していて、その乖離をどうジャンプするかということに悩むビジョンが、良いビジョンなのだと思います。

そうして考えたビジョンに、どうやって向かっていくかも社員みんなで考えています。いつまでも私が社長である訳はないので、みんなが考えて、ちゃんと意見を出し合っていく会社にしていきたい。ビジョンをみんなのものにして、どうやっていくかを考える訓練をしている感覚です。

以前から、この会社は仕事が出来る人たちの集まりにしたいと思ってきました。「あそこで働いていた人間って、仕事ができるよね」と言われる状態を作るのが、ある意味、雇う側の責任だと思うんです。

せっかく一緒に働くのであれば、考えさせて、やらせて、嫌でも実力が伸びる時間にしないともったいないし、社員にはそういう時間を過ごしてほしい。もし他の会社に移ったとしても、当社で過ごした時間がその人にとって有益であればいいと思っています。

将来的には誰もやっていない技術に取り組むのがWELCONの目標です。そのためには、未踏峰に登るだけのスキルや筋力がないといけない。それはどんな山を目指すかで内容は異なります。

ロングランに耐える体力を持つべきか、岸壁に強くなるのか。そういうことを考えながら、今は「熱対策部品メーカーのブランドになる」、「拡散接合で世界一になる」というふたつの大きな目標を10年で達成しようと頑張っています。

社員それぞれがインパクトを与え、WELCONの文化が育っている。

会社を築くという点で大事にしているのは社員の自律と相手に対する敬意。自主的に行動するというのは価値観がしっかりしていないとできないので、面接のときには、自分が人生で何をやりたいのかということを毎回質問します。

いつも誰かが助けてくれるわけではないですし、ひとりで最終判断しなければならないことはどこにでもある。その時に自分の判断が良い方に働いてくれるためには、普段から磨いておかないと辛いと思っています。あとは論理的に話せること、表現力や理解力も重視します。

経済感覚も大事にしています。商売は市場の評価を得て、モノが売れていかないといけない。モノが売れて利益が出るということは、次の開発を付託されているのと同じことですよね。

自己本位の開発ではなく、社会の発展に貢献するということは、受け入れられて初めて叶うもの。そして、どんなに良いものものでも、みんなが使えなければ社会の発展に寄与しないし、それでは意味をなさない。だから、提供する金額が分かる経済感覚を養わないといけません。それは開発でも、設計でも、製造でも全て必要で、みんなにその能力を求めています。

いま、会社にはいい人が揃ってくれているので、思っている以上のものが出てくることも結構あります。12年目に初めての新卒が入ったので、ほぼ全員が中途採用なんですが、社員はそれぞれみんな会社にインパクトを与えていると思います。

会社同士、組織同士がぶつかるというのは、文化がぶつかるようなもの。考え方や習慣の違いがぶつかって、論理的に対話をして、信頼が生まれて、交渉事が進む。それを社内でも建設的にやれる雰囲気を作ることが私の課題です。

いろいろな文化を持った人が入社してきて、対立せず吸収できる懐の深さを持ちたい。うちの場合、ほぼ全員中途採用なので、学校も社会人経験も全員違う。面白いですよ。

それぞれが、それぞれのカラーで考える材料を与えてくれる。池に石を投げてくれて、その波紋で「うちはこうしたらいいのかもね」というのが分かってきて、少しずつ私たちの文化、カラーが出来上がってきているんじゃないかと思います。

毎年5億円を開発に使えるくらいの体力を持った会社になりたい。

自分がやるより、この人がやる方が絶対に上手いとか、仕事が早いとか、入社してくれてよかったと思う社員はたくさんいます。最初からいる社員も期待以上に伸びて、何の心配もなく完全に任せられる。とても助けられているし、アドバイスを受けた皆さんや、お世話になった人も含めて、良い人たちと知り合っているという感じがします。

最近は打診を受ける案件の規模が大きくなってきて、時には年商以上の額面の検討案件などが舞い込んできます。準備にもお金がかかるので、受注できればいいですが、逆だととんでもないダメージを受けることになります。緊張と面白みがありますが、要はやったことがない訳です。

社員の中には、以前の会社でそういう規模のものに取り組んだことがある人達がいてくれるので、みんなで取り組み方の議論ができる。そういう意味でも助けられています。みんなで創って、みんなでいきいきと働いて、それが評価されたらうれしいと思うし、社員にはここでそういう時間を過ごしてほしいと思っています。

今、見えている景色の中で、日本は世界の工場としての役割を果たすことは難しいと感じます。では、世界に対する日本の強みは何かと考えると、やはりずっとフロントランナーで走っていくことだと思います。

私たちはこれから、まずはその未踏峰をどこにするかを決めていきたい。そのためには実力を付けないといけないし、少なくとも毎年5億円くらいは何に使ってもいいよ、というくらいの体力をつけて、面白いことをやっていきたいと思います。

編集後記

コンサルタント
皆川 暁洋

ひとたび話し出すと、技術に対する愛が溢れ出す鈴木社長。そしてそれは技術者の方々からも同様に発せられることからも、WELCON社は鈴木社長を筆頭とした真の技術者集団であると言えます。

今回のインタビューでも、改めて「新潟から、技術で世界へ発信する」という気概をビシビシ感じましたし、比較的保守的な新潟の地にあって、研究開発に重きを置き、技術で勝っていくという鈴木社長の覚悟を強く感じました。

近い将来、海を越えて大きく羽ばたいていく際にもご一緒できることを楽しみにしています。

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